373 / 1015
後輩の後輩
若葉を連れて適当に公園に入った
若葉はソワソワと落ち着きなくあたりを見回しながらオレについてくる
手ごろなベンチを見つけてそこに座った
早く帰らないといけないから手早く話を終わらせたかった
「……久しぶりだな…」
「はい!!1年ぶり…ぐらいッス!!」
若葉が相変わらず嬉しそうに言う
こいつは辻若葉、オレの一つ下で同じ中学の後輩だった
見てわかる通り勝手に自分の事をオレの舎弟とかだと思い込んでる…
「……で、なんだよ…急いでんだよ…」
「あ!!スイマセン!!あの!!まずお誕生日おめでとうございます!!」
また若葉が頭を大きく下げる
そんな律儀なところも若葉っぽくて少しだけ顔を緩めた
中学はオレが一番不良らしい荒れ方をしてた時期だった
きっかけは弟を絡まれてる不良から助けたことだったけどその後考えるのもめんどくさくて絡んでくるやつとは片っ端からケンカしていってた
先輩とケンカしても負けなかったし高校生との喧嘩でも負けたりしなかった
そしたらいつの間にか若葉みたいなやつがたくさんそばにいた
オレを期待や尊敬の目で見てわざわざ自分を下にする
初めはなんかそういう腰ぎんちゃくみたいのがたくさんくっついて「猛さん」とか呼ばれるのがかっこ悪くて嫌だったけど最後はもう無視していた
そんな中でも若葉はオレがどんなに冷たくしてあしらってもしつこく後を付いて回ってきた相手で必然的によく一緒にいた相手だった
先輩のとこに早く戻りたくてそわそわする
こいつはこんなことを言うためだけにここまで来たんだろうか?
若葉がオレの顔色伺ってるあたりそうではないんだろうけど…
「あのッスね…猛さん中学の時よくケンカしてた中学、あるじゃないッスか…」
「……おう…?」
やっともじもじしながらも若葉が話し始めた
「……このあいだまたうちとデカいケンカしたんスけど…そしたら猛さんがいた時にコテンパンにしてた須王ってやつが来まして…」
「…………」
「猛さんがいなくなったのを良いコトに好きかってやってるんス」
「…………」
「ちょっと前までおとなしくしてたのに急に調子づき始めて…」
オレはこういうのが嫌だった
そりゃ絡まれればケンカはしたけど別に進んでケンカがしたいわけじゃない
そして何よりダサい
こんな安っぽいヤンキー映画見たいな理由のケンカに加担するのは嫌だった
別に縄張りだとかそう言うのどうでもいいし…
若葉はきっとオレにそいつとケンカして欲しいんだろ…
「けが人もたくさん出たんス…」
「………」
しゅーんっとした顔で若葉が言う
その須王ってやつは多分まだ小学生だった洋太と美香に絡んで行ってたのを見つけてオレが最初にケンカした相手だった
その後も何かと絡んで来てたのを覚えてる…
でも俺は別にどうってつもりもない
もうケンカする気もないし…
なおも続ける若葉の言葉を遮って口を開いた
「オレはお前が期待してるような奴じゃない、もうケンカはしない…」
「!?なんでッスか!!あんな強かったのに…!!」
「別に強いとか弱いとか関係ないだろ」
「…でも……」
「皆沢山怪我したんス…」と小さい声で若葉が続けた
確かにそれはかわいそうかもしれないしちょっと胸が痛い
でもオレはそこでじゃあ助けてやろうってなるほどかっこよくもないし良いやつでもない
そんなやつとやるってことは目立つケンカだろうし学校に知られるのもバイト先にばれるのもまずい
鞄を持って立ち上がる
もう暗くなり始めていた
「とにかく、オレはケンカしない」
「……………」
若葉はうつむいてる
そのまま若葉の脇を通って帰ろうとした
「猛さん!!おれ諦めませんから!!!」
「…………」
後ろから若葉のそんな叫びが聞こえたけど無視した
ともだちにシェアしよう!