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『あの人』
「銀」
それはもう思考と体の動きとどっちも止まるぐらいびっくりした
「久しぶり」
「………」
驚いた表情のまま振り向くと端整なでもよく知った顔の男がこっちを見てこれまたよく知った風にニヤッと笑った
今一番会いたくない男だった
「………なんで来たん…」
「なんでかぁ…そうだな~2年ぶりにかわいい弟に会いたいな~って思ったから、とかじゃだめ?」
「…………」
「すごーい、怒ってもオレと同じ顔!!いいね~」
「…………」
このオレの目の前でけらけら笑ってる人はオレの兄貴やった…
頬付金(ほおつきかな)、21歳、AB型、仕事は…今は何してるのか知らん…
悔しいけどオレとそっくりの顔で背格好までそっくり…
そしてオレがこの世で一番嫌いな人…
「どーお?今からどっか飲みに行かない?」
「アホか、未成年や」
「まだ関西弁なのか~、オレと区別付けてもらえないのが嫌でわざわざ髪までそんなにしちゃっていまもそのままなんだ…ふふーかわいいなー」
「触んな」
「ふふふっ…」
そう言うと兄貴はオレの頭から手を離して気味の悪い笑顔をやめてにたにたした見るからに嫌な感じの笑い方に戻った
意味あり気に空を見上げてからこっちに向き直る
「どう?静香ちゃん、会ったでしょ?」
「…………あんたが連れてきたん…」
「お兄ちゃんって呼んでよ」
「…アホか」
いやーな顔やった
自分もこんな顔してるんやろうか…
「まぁいいや…たまたま久しぶりに静香ちゃんに会ったら挨拶もなしに逃げようとするからさー、オレ銀のいる場所知ってるよーって言ったら教えてって言われたから教えてあげた」
「…………」
「オレ、優しいから」
怪しい…
何がしたいんやろう…
兄貴は根っからの快楽主義者や…
善意だけでそんなことするとは思えんしまず善意とかあるかも怪しい…
それにそんなことしてもこの人がそれをわざわざ見にきたがるとは思えなかった
別にオレと静香がそれによってよりを戻そうがそのままだろうがこの人はそれを見ても何も楽しいことはない
胡散臭い…
正直早くオレの前から消えて欲しかった
「………オレ…まだあんたのこと許したつもりないんやけど?」
「えーお兄ちゃんかなしー」
「…………」
さほど悲しくなさそうに言う
正直今でもあれを思い出すと怒りがふつふつ湧き上がってきてどうにかなりそうやった
これからも許す気はない…
そうやってじーっと兄貴を疑って睨んでたら
また意味ありげにクスッと笑って口を開いた
「ふふっ…話変わるけどさ銀今彼女いたりする?」
「………関係、ないやろ…」
「いるよね?黒髪で天パでさ、顔なんかは中の中って感じだけど雰囲気可愛い感じの……あ、男の子だったかな?」
「………」
正直焦った、嫌な予感がした
もう嫌な予感というかそれは悪寒と寒気と吐き気とめまいが一気に来たような感じやった
4年前に兄貴が放った言葉がよみがえる…
「あの子さ…いいよね…」
昔の兄貴の言葉と重なってその声が二重に聞こえた気がした
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