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愛おしい人

こうしてオレは逃げた 兄貴からも、静香からも… 自分の問題ぜーんぶに目を背けてどこか誰もいない遠いところに行こうとしたんや あの日また夢を見た… 兄貴に抱かれて気を失ってそんなときに限って幸せな夢やった… 静香がオレの手を握ってちょっと照れたような顔で笑って、オレのあげたネックレスをして…それでオレのあげた指輪を左手の薬指にはめとった 幸せで特に何をしたわけでもなかったけど二人ともわらっとった でもふと目が覚めたらそんな事はなくて、腰も尻も痛いし手首と足首には赤く跡がついて全裸で自分のかそれとも兄貴のかわからない体液に塗れて兄貴の部屋で寝とった 思い出して絶望して静香がどんな気持ちやったのかが改めて分かった あんなに冷たく当たった自分を呪った そしてそれと同時に静香がどれほど懐の広い人だったのかが分かった 苦しかった… でも今までこんなに遊びほうけて静香が一番つらかった時期に一番優しくして甘やかしてやらなくちゃいけなかったオレがつらく当たって、挙句に兄貴なんかに抱かれて… そんなオレが会いに行って静香がなんて言うかが怖かった もしかしたらもう静香は別の人が好きでそっちで幸せにしてるのかもしれないと思うとその事実を突きつけられるのが怖くて連絡が取れなかった やから逃げた 考えたくない嫌な事や負の感情や怒りに蓋をして考えるのをやめて、怖い兄貴や悲しい思い出から遠いところに行って今までみたいに女たぶらかして面白おかしく暮らそうとした おおむねその計画はうまく行きそうやった……なのに… 「…………ぎん…」 「ん?」 「…………好き……」 「…………………………ん…」 計画が狂った またこんなに人を好きになるとは思わんかった 始めは遊びやった… 男やしまぁ手ごろに手に入ったから手始めにと思ってストックの一つにしとこうと思った 飽きるまで遊んで飽きたら捨ててもっと見栄えのいいのに乗り換えようと思った きっとあの時のオレなら志波なんか喜んで抱いたんやろなぁ…きも… まなは遊びで、玩具で…最後に惚れさせてこっぴどく振るのもいいななんてたちの悪いことを考えたりもした なのになぜかどんどんはまっていって泣かれるのがつらくなって、丸まってすり寄りながら好きだなんて言われると胸の奥がきゅうっとなって罪悪感が募った そしてまながレイプされて弱ってオレのとこに来たときにどこかで好きにならないように掛けてたストッパーが外れた なんだかんだ言って寂しかったんやと思う 静香みたいにオレの事を愛してくれる人に本当はそばにいて欲しかったんや…

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