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喪失と虚無
まなは一晩中オレを抱き締めていてくれた
「まな…好き…」
「………」
でも何も言ってくれなかった
ずっと何かを考え込むように黙り込んでた…
「好き…」
「うん…」
「大好き…」
「………俺もだよ……俺も大好きだよ…」
でも…だからまながそう言ってくれた時嬉しかったし安心した…
まながオレの昔の話を聞いて重いと思われたり、器が小さいやつやと思われて拒絶されたり嫌われるのが怖かった
まながそんな事を言わないのはわかっとったけどそれでも引いたり、多少なり重いと思ったりされると思った
その「隙」に付け入られて兄貴にまなを取られたらと思うと怖かった
いくらまなが兄貴はそう言うやつやってわかっててもその上を行くほど兄貴はずるがしこくて人の心に付け入るのが上手い
静香もその隙に付け込まれ、オレもそうやって兄貴に隙を作られた
オレはずっと…心のどこかでオレは兄貴には勝てないと思っとった
昔からオレは何でもできたしモテたし特に困ったこともなかったけど兄貴はいっつもその上やった
勉強も運動も音楽も全部…
でも特に親がそれについて兄貴とオレを比べたりせんかったし周りもそうやったから特別に劣等感を抱いたりはしなかった
でもずっと心のどこかで悔しいと思ってたんや
オレは昔から自分が思っていたよりも目立ちたがり屋らしい
いつか兄貴に勝って一番になりたいと思っとった
逆にそれがあの歳で『基本的に』なんでも思い通りになると思ってたオレを燃やす目標であり活力そのものやった
やから静香と付き合うようになった時に静香の一番になれたと思えた時達成感みたいなものを感じた
いままでやってオレを一番にすいてくれた女はいたけれどそれは『俺が求めたもの』ではなかった
きっとそいつらは兄貴に会えば兄貴を好きになる…そんな奴らやった
でも静香は苦労して手に入れてこその達成感やった
静香なら兄貴とオレが並んでもオレを選んでくれるんやと思っとった
でも結局静香は形はどうであれ兄貴の言うことを信じ、オレの話しを聞こうともしなかった
その喪失感と虚無感はすさまじかった
兄貴に愛だの恋だのは結局その程度の物だと言われたような気がした…
またオレは兄貴に負けた…
やからオレはやっぱり心のどこかで兄貴とオレが並べばまなやって兄貴を選ぶんやろうとおもっとった
ずっと自分に自信がなかった…
でもまなは俺が好きやって改めていってくれたことがいまのオレにとって大きな救いやった…
まなもそう思って好きやっていってくれたんやとおもっとった
「銀…ちょっと考えさせて……」
やからまなの言った一言は衝撃的やった…
またダメなん…またあんな思いをせなあかんのん…?
なぁ…まな……
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