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運命の一人目

「………」 「………」 銀は何も言わなかった 私も銀の手を胸に押し付けたまま動けなかった このまま無理やり体を重ねるぐらいするつもりでいたのに動けない… また銀に面と向かって拒絶されるのが怖いんだ… 「………」 「……静香……」 「………」 先に口を開いたのは銀だった 私の手から自分の手を抜いて私の肩を掴む 表情はうつむいてるせいでわからなかったが怒ってるような気がした 「………静香を選ぶことはできない…」 「………」 あぁ… 一世一代の賭けで負けたはずなのにそこまで悔しくなかった 私はどうなるんだろう… 普通殴られるか… それならまだいい…軽蔑されてまた拒否されるんだろうか… でも仕方がない…私はそれぐらい汚らわしいことをしてる… 何となくわかってた…銀は私を選ばないって…でも最後にそれぐらいの夢は見たかった…… 下を向いてぎゅっと目をつぶった それなりの覚悟はできていた… なのに… 「………静香…」 「…!?」 懐かしい香りと温度に包まれてた 銀が私を抱き締めている それに気づくより先に涙がこぼれた 視界が歪んむ 「オレはまなが好きやから…静香の事は選べない…でもな…」 「………」 「静香の事も好きやってん…ずっと…」 「……う……ん…」 「まなに会うまで…多分まなに会ってからもしばらくはずっと好きやってん…静香のこと…」 「う…ん……」 涙が止まらなかった 3年ぶりに抱かれた銀の腕は暖かくて優しかった 「ありがとう…」 「………」 「あんなに辛く当たったオレをずっと好きでいてくれて…会いに来てくれてありがとう…」 「……う……ん……」 そう言うと銀は最後にぎゅっと私を強く抱いてから腕を解いた もう私がこの腕に抱かれることはないんだ… そう思うと悲しくてどうにかなりそうだったけどそれでも最高に気分がよかった… 「好きやったで…誰よりも…」 「……私もよ…」 今でも…とは言えなかった… でもきっと私は銀にとって大切な人になれた… 銀は私の頭にぽんっと手を置いてから部屋を出ていこうとした そんな時…そんな時だからかしら…昔見た映画の事なんかを思い出した 元は恋愛小説で私はそれが大好きで恋愛ものの映画に興味がない銀を引きずって一緒に見に行った… その小説の中の男の子と女の子が一緒に映画デートして映画の中のセリフを女の子に行ってあげたりしてて… 銀はハッって鼻で笑うように見てたけどホントはちょっと銀が言ってくれるかもなんて期待してた… だから言ってくれない銀にやきもきして自分からお昼に入ったレストランで女の子役の女優さんのセリフを言ってみたりしたっけ… そんな事を思う自分を心の中で笑いながらいまだに未練がましくつけてたハートのネックレスを外して口を開いた 「ねぇ…銀…」 「………」 「あのね…運命の人って二人いるって言うの…」 「………」 「一人目で愛することと別れの辛さを学んで二人目で永遠の愛を知るの…」 「………」 「銀の…一人目になれたかしら…?」 銀に昔誕生日に貰ったネックレスを渡した もう私には必要のない物だもの… 銀はそのネックレスを受け取って目を細めてから私の方に向き直った 「……静香にとっても『一人目』や…」 「………………そう、ね…」 銀はそう言って笑って出て行った 覚えていてくれた… 銀が言ったのはあの映画で俳優さんがデートの後に言ったセリフじゃなくて最後に女の子に看取られながら死んでいく時のセリフだった まだ涙は止まりそうになかった… 「うっ…うぅ…」 悲しい… あの時みたいに胸が痛い… でも不思議と苦しくなかった 逆にずっと胸の中にあった重苦しい物が無くなっていくようだった まなちゃん……きっと彼は銀の二人目なんでしょう… 私もきっといつか… 服を直して銀の家を後にした 悲しくて涙は止まらなかったけどでも笑顔だった 銀…好きよ…誰よりも…

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