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敗戦?
「………れ…です……」
「ん?なーに?学くん?」
「おれ…です…」
「んー?」
金さんが俺の顔を覗き込む
言っちゃいけないってわかってるはずなのにもう銀と静香さんの話なんて聞きたくなくて言ってしまった
悔しくて体が震えて自分の弱さが情けなくて涙が滲んだ
「銀、と付き合ってるの…おれ…です…」
「あらら」
金さんは知らなかったと派手に驚いたふりをした
「ごめんねぇ、オレ知らなくて…そっかぁ、学くんかぁ…」
「………」
金さんはそんな声色と似つかない楽しそうな表情だった
悔しかった
「………でもさぁ…学くん、男の子だよね?」
「………」
「あ、別にどうってことはないんだけどね?」
わかってる…
ぎゅっと膝に乗せてた鞄を抱き締めた
俺が一番よくわかってる…
なのに人にそう言われるのは辛かった
俺が銀とお似合いじゃないことも、静香さんは銀とお似合いな事も分かってる…
きっと銀は一緒に手繋いで歩いたり周りから恋人って見られたいって思ってるんだろうしそれを我慢させてることも分かってるつもりだった
………俺だって好きでそうしてるわけじゃないのに…
金さんは俺がきゅっと唇を噛んだのを見逃さなかった
「オレね、正直銀には学くんより静香ちゃんが似合うんじゃないかな~って思うんだ」
「………」
「いや?でもね、学くんも分かるよね?」
「………」
俺はいやいやと首を振ることしかできそうになかった
声を出したら震えそうで泣きそうなのがばれるのが嫌だった
金さんが顔を背ける俺と無理やり視線を合わせようとする
こんな顔この人にだけは見られたくなかった
顔を腕で覆って必死に隠す
金さんはその腕をどけようとしたけど力を入れて見せないようにした
腕を押さえられてそのままベットに押し倒される
顔を見せまいとするのに必死だった
「なぁ?まーな?」
「!?」
一生懸命抵抗してたのにピタッと体の動きが止った
手の力が抜けて腕がどかされてしまう
目の前に金さんの顔があったふふって笑って俺の目じりに伝う涙を舐めた
金さんが体を押し付けて密着してくる
同じ声で同じ顔で同じ体だった……全部『銀の』だった…
でもそれを一瞬でやめてニッコリと『金さんの顔』に戻した
「ね?銀はさ、静香ちゃんにあげようよ?お似合いだし、きっと銀もその方が喜ぶよ?」
「………」
「だからさ、オレのとこにおいで?銀のまねだってしてあげるよ?優しくしてあげる…ま・な♥」
金さんは一瞬で声色を変えて俺を揺すった
俺の頭をあの手で撫でて、甘い声で耳元でささやくみたいに俺の名前を呼び続ける
ギュッと目をつぶって必死に耐えたけどもう縋ってしまいそうだった
ここに来るときのあの威勢はなくなってもうフルフル震えて耐えることしかできなかった
この時点で俺はもう金さんに負けてしまったんだ…
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