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素直じゃないけど。③

「こ、これは……。」 互いに押し合うように建ち並ぶビルの間、大通りの音が少し遠くに聞こえる奥まった場所にそれはあった。 扉を閉めていても漏れ出てくる大きな音、やけにお洒落な筆記体の看板、そう、ここはクラブハウスだ。 「おいおい、勘弁してくれよ…」 (俺にここへ入れと言うのか?) 俺は音信不通となった彼方を探しにここへやって来た。 だが、だがな、いくら彼方を探すためとはいえ、こういうところへは極力入りたくはない。 何しろ今の若い奴等はおっかないからな。遥遠とか遥遠とか遥遠とか… それは置いといて。 俺は意を決してクラブハウスの中へと足を踏み入れた。 扉を開けた瞬間、閉まっていたときとは比べ物にならないくらいの爆音が耳を刺激し、色とりどりの光が不規則に動き回っている。 (うへぇ…、なんかもう全部うるせぇ。) 今すぐにでも帰りたいという気持ちを抑え、彼方の姿を探す。 アハハやらキャハハやらと喧しいガキ共の合間を縫って店の奥へと進むと、テーブルとソファーがいくつか並んでいるところに見慣れた金色の頭が。 見つけた…… 「キャッ!!いったぁ~い!!!」 (あ、やべ。) 人の波を掻き分けて歩いていたので、どうやら一人の女の子にぶつかってしまったようだ。 「もぉ~!何すんのよ~?」 「すみません、周り見てませんでした…。」 女の子がじろじろと俺を観察している。 「…へぇ~、結構イケメンだねー。お兄さんいくつぅ~?」 「あたしは18歳なの~!!」と急にベタベタくっついてくる女の子。 妙に高い猫撫で声でなんだか気色悪い。 胸当たってますよー、キモいんでやめてくださーい…何て言えるわけもなく、俺はハハハ…と笑うしかなかった。 「ねぇ~、教えてよぉ~?」 「うーん、はは、でもなー。俺オッサンだからなー…。」 「えー、お願ぁ~い。」 しつけぇこの女。 とそこへ 「おいオッサン。」 「あ。」 「あ。じゃねぇよ、恋人の目の前で堂々と浮気か?」 金髪、マスク、両耳にいくつも開いた痛そうなピアス… 「浮気じゃねぇよ。迎えに来てやったぞ……、彼方。」 (やっと話せた。) 「ふん。」 未だに不機嫌な彼方は「来てやったじゃねぇよクソジジィ。」と暴言を吐いている。 「うっせぇ、さっさと来いクソガキ。帰んぞ。」 そしてこちらも負けじと暴言を吐き、彼方の腕を引っ張り店を出る。 「え、ちょっと、行っちゃうのぉ~!?!?」 女なんて無視だ無視。 「オッサンイテェ、腕離せよ。」 「外出たらな。」 俺達はまたここへ来たときと同じ様に人混みを掻き分け、外へ出た。 「で、彼方さん?君は何でこんなとこに来てんのかな?」 「アンタに関係無いだろ。」 そう言ってふいっとそっぽを向く彼方。 「関係無くないだろ!」 「何で。」 「何でって…、俺はお前の彼氏だろ!?」 「………せに。」 「あ?きこえねぇ。」 「俺のことなんか、どうでもいいくせに。」 ポタリ。 言うと同時にポロッ、ポロッと彼方の目から涙がこぼれ落ちた。 「は?」 突然泣き出す彼方に内心焦りまくってるけどパニックで逆に動けなくなる俺。 どうでもいいだって?俺が、彼方を? ちょ、ちょっと待て 「いつ、どこでどうやったらそういう事になるんだ…。」 「………一昨日。」 「一昨日?」 俺何かしたか…? 「一昨日、オッサン俺に帰れって言った。」 「はあ?」 あれはただの冗談のつもりで言ったんだが… 「俺とデートすんの嫌だったんだろ。メンドクサイんだろ、俺のこと。どうせ俺は女々しいクソガキだよ。振りたかったら振ればいいさ、俺はあんたみたいに大人っぽくなんて出来ねぇもん。」 「待て待て待て、一旦落ち着け。」 ペラペラと自分の悪口を言い出す彼方は、放っといたらまだしゃべり続けそうだった。 「なんだよ、俺の話を聞くのも面倒なのかよ?」 「だから違ぇって!」 「何が違うんだよ、俺と別れたいんだろ。だから別れ話しにここに来たんだろ。」 「はぁ…あのなあ!別れ話するためだけにわざわざこんなとこまで来ないだろ?」 「じゃあ何しに来たんだよ。」と仏頂面で彼方が言う。 「お前に謝ろうと思って来たんだよ。」 何を?とでも言いたげな顔の彼方。 「その、この前は、悪かったよ。デ、デート?のお誘いに気づいてやれなくて。」 「…………。」 「挙げ句の果てに、帰れなんて言って、悪かった。」 泣いて少し赤くなってしまった彼方の目を見つめて言う。 「俺は、お前の事を面倒だとか、女々しいだとか、そんな風に思ったことは1度もない。」 「……………。」 「彼方、好きだ。好きだよ。」 「ッ……!!」 「好き。愛してる。」 朱に染まった目元を更に歪めて、彼方から大粒の涙と嗚咽が漏れ出す。 後から後から溢れてくる滴を頬に添えた両手で拭ってやる。 「彼方、ごめん。不安にさせて悪かった。これからもっと気を付けるから。」 だから泣くな。そう言うと彼方は俺の両手にしがみついてもっと涙を溢す。 「俺が欲しいのは彼方だけだ。お前のこと嫌いになるなんて事はあり得ないよ。」 だから、もっと自分の気持ちを言ってくれ。 不満があるなら、ちゃんと俺に伝えてくれ。 お前はまだ子供なんだから、少しの我儘くらいきいてやる。 だから、そんなに一人で抱え込むなよ。 俺はそっと彼方の目尻にキスをひとつ落とした。 「ッ、うぅっ、バ、ッカ!明日香の、バカッ!!!」 「あぁ。俺がバカだった、ごめんな。」 「ヒックッ!!あっ、やまっ、なよぉ!!!悪いの、俺、ヒッ、おれ、なのに!!!」 「彼方……、」 「うわぁぁぁあああん!!!!!」彼方はまるで小さい子どもみたいに泣きじゃくった。 ずっと、ずっと、泣き疲れるまで泣き続けた。 そしてその帰り道。 彼方の家に向かって並んで歩く。 「おいオッサン…。」 「なんだクソガキ。」 そこで少しの沈黙が二人の間に流れる。 「俺…、俺は、素直じゃないよ。」 「知ってる。」 「これからもきっと、オッサン…明日香のこと困らせるよ。」 「マジかー。」 「それでも、いいのかよ。俺で……いいのかよ?」 「…………。」 不安げな彼方の表情。 彼方でいいかだって……?そんなの。 「……フッ、上等だ。一生面倒みてやるよガキんちょ。」 そう言ってやると、彼方は嬉しそうな泣きそうな、なんとも言えない顔をしていた。 あぁ、こんなに愛しく思うのに、どうして手放すなんて出来るだろうか。 「おいオッサン!!!」 「今度はなんだクソガキ。」 すると彼方が満面の笑みで 「…………、 愛してる。」 トスッ!!! あ、今絶対ハート撃ち抜かれた………

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