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ばれました。⑥~幼馴染み編~

玄関で靴を履く秀一の後ろ姿を見ながら、さっきの彼方の言葉を思い出す。 『それを理由にして逃げたくないというか、そういったことにも向き合いたいというか…』 『好き…だから』 『明日香と離れる方が、辛い…。』 そう言ったときの彼方は澄ましてはいたが、とても泣きそうな苦しそうな表情だった。 そう…そうなんだよ。 同性だとか年齢だとか、そんなこと俺達が一番分かってる。 付き合う前に散々考えた。 本当にこれでいいのか、ちゃんとやっていけるのか、悩んで悩んで悩み抜いた末に決めたんだ。 それはきっと彼方も同じ…。 だからこそ彼方は はっきりと秀一に告げてくれたのだろう。 向き合いたいと。逃げたくないと。 「なぁ秀一」 「ん?」 靴を履き終えた背中に声を掛ける。 振り返った秀一と目が合い、俺はいつもと変わらない口調で 「俺も、逃げないよ。」 「……………」 「俺もアイツも絶対に幸せだから、大丈夫だ。」 「………彼方君はまだ若い。あの子が嫌だと言ったら、手放してやれるのか。」 「フンッ、嫌だなんて言わせねぇよ。」 「…手放す気なんてなさそうだな。」 「更々ないね。むしろもっと惚れさせてやるよ。」 「…あの子を、守ってく覚悟があるんだな?」 「当然。」 俺はフンッと鼻をならした。 「ハァ…、まぁいいや。それ聞いて安心したよ。」 秀一はじゃあなとドアノブに手を掛け外へ…と思ったら、最後に 「あ。言い忘れてたけどアレの時はお尻は大事にしてあげろよ?痔にでもなったら大変だぞ?」 と言い残して玄関を出ていった。 「秀一テメェ!!!」 「アハハハッ、お幸せに~」 扉の向こうから秀一の能天気な笑い声が聞こえてくる。 あの野郎…本当に締まらない奴だ。 はぁ…溜め息を吐きながらリビングに戻ると、彼方が膝を抱えて踞っていた。 「彼方。」 声を掛けて隣に座る。 「…俺は」 ぼそぼそと掠れた声で彼方が喋り出す。 「俺は好きだよ…。あすかのこと、ちゃんと好きだ。」 「…そうだな。お前は俺と2日連絡取れないだけですぐ寂しくなっちゃう位俺のこと大好きだもんな。」 「うっさい…茶化すなよオッサン。」 「イテッ」 彼方の肘鉄が俺の左腕にヒットする。 「…ちゃんと、好きなんだよ。でもやっぱり、駄目なのか?あすは俺のこと…邪魔か?」 震えた涙声が心細そうにぽつぽつと弱気な言葉を零す。 さっきまではあんなに強がっていたのに、丸まって縮こまって、顔を上げようともしない。 「チュッ…」 「んッ」 俺は白いうなじにキスを落としながら言った。 「…俺のために頑張ってくれたんだよな。秀一に認めてもらうために、頑張ったんだよな。」 「……別にお前のためなんかじゃないし…」 「ひとに言うの怖かっただろ?ごめんな。ありがとう。」 「………………」 「大丈夫だ…、駄目なんかじゃない。もちろん邪魔なんかでもない。」 「……ふッ…」 「好きだよ。愛してる。」 「ふっ…うぅッ…」 「俺は彼方でないと駄目なんだよ…。」 「うぅ…うぇッ、ふッ…」 とうとう泣き出してしまった彼方。 あぁ、どうしたことか。 どうしようもなくコイツが愛しい。可愛くて可愛くて仕方がない。手放すなんて考えられない。 俺が嫌になる?彼方が邪魔?そんなことあるわけがないだろ。 俺は何だか無性に胸が苦しくなった。 それと同時に、幸せだと、これ以上無いくらいに幸せだと感じた。 その日の夜、俺は彼方と抱き合って眠った。 ただただ何もせず、相手の体温を感じながら。 手を繋いで…。

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