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足りない。②

「ッよ!明日香、元気か?」 背中への ドンッ という衝撃と共に聞き慣れた声。 「秀一…。この顔が元気そうに見えるか…?」 「ハハハッ見えないね、や~随分とやつれてるねぇ~」 カラカラと愉快そうに笑う優しそうな幼馴染みの顔が今はとても憎たらしい。 「お前は朝からうるせぇな…」 「ん?おう元気元気!!忙しすぎて寝てないんだけどな!むしろいつもより元気だぞ!!!」 「お前それ元気って言わねぇよ。アドレナリン出過ぎてるだけだろ…。」 「まぁ仕事が終わればなんだっていいんだよ。お、カップ麺見っけ~これ貰うな。」 「おい!!それ俺の昼メs…「さっさと仕事しろよ~」…」 お前も他人のこと言ってられんだろうが… 大丈夫かアイツ、俺よりアイツの方がよっぽどやべぇな。 そういや秀一の担当作家も遅刻常習犯だったか。 うちの先生方は何でこう自分勝手なんだ… 「くっそまた買いに出ないといけないじゃないかよ…」 まぁいい。どうせ仕事が片付くまでは何にも出来ないんだ。 どうせなら昼は終わらせてからゆっくり食べよう。 味なんてよく分かってない朝飯のお握りを大口で頬張りながらゲラの最終チェックを行う。 赤ペンでいれた直しを改行、誤字脱字、言い回し…とひとつひとつ丁寧に見返していく。 …よし。 あとはこれを印刷所に入稿すればいい。 パソコンの画面に表示されたカーソルを動かし、マウスをクリックする。 「お、おわっ、た……」 やっと、やっと終わった。 辛い…死にそう…。 「もう無理。腹減った。眠い。彼方に会いたい。仕事やめたい。」 時計の針は疾うにてっぺんを通りすぎていた。 また印刷所に怒られる…… 「おいおい最後のはやめてくれよ?」 声に出てんぞと秀一がコーヒーを持ってきてくれる。 こいつのこういうとこマジ好き。 「あーマジ彼方欠乏症。」 「先週会えてないんだっけ?」 「そうだよ、つーか今月は一度も会えてない。ラインも素っ気ない返事だし…。うちの部はどうして遅刻魔ばっかり集まるんだ。全部森沢の野郎のせいだ。」 「野郎ってw仮にもうちの看板作家様に対してなんという口の悪さww」 受け取ったコーヒーを一気に飲み干す。 芳醇な豆の香りが鼻を擽り、程好い苦味が口の中に広がる。 心なしか疲労感が和らいだ気がした。 「ホント会いたい。癒されたい。触りたいぃぃいいいぃい」 デスクに突っ伏して叫ぶ俺を秀一が「ハハハ、相当荒れてんなー。」なんて笑いながら見てやがる。 「彼方ぁぁあああ 彼方の料理が食べたいぃぃいいい」 「だってよ、彼方くん。コイツのことどう思う?」 「キモイ。オッサンが駄々こねるんじゃねぇよ。」 「あ"?なんだと秀一、テメェなめた口きいてんじゃねぇぞ」 「元ヤン出ちゃってるし言ったのは俺じゃないよ」 聞こえてきたオッサンという単語に思わず視線を向ける。 こっち。と秀一が隣を指差す。 …っは?え、かッ、か 「…かな、た………!?」

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