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番外編 ハッピー?バレンタインデー③
「は?」
なんだって……?
「印刷所から納期できるだけ早めてくれって連絡がきたんだよ…」
だから申し訳ないんだけど、今月残り全部出勤な。
バレンタイン翌日。そう告げる編集長の顔は土気色でまるで死神のようだった。
と言うか、え? ノコリ ゼンブ シュッキン…?
ゴメンちょっと意味が理解できない。
出勤…出勤な……。ぜんぶ……全部?…え?
つまり俺、休みなし?
あれ?俺先週も先々週も休んでなくない?だから昨日 久々に彼方に会ってあと数日乗り切ろうって…じゃあ俺今週末も彼方に会えないの?は?なにそれ?結局今月一回しか会ってなくない?待って無理。もう無理つらい。
……これは死刑宣告だろうか…?
この会社は俺に死ねと言っているのか…?
「?…どうしたんですか日向さん…?……日向さん……?」
俺はゆらり…と席から立ち上がり机上のハサミを手に取ると、雑然と並んだデスクと人の合間を縫って入り口へ向かって歩き出した。
「ちょっと印刷所行ってやって来ます…」
「何をですか?」
「何をって、殺ってくるんですよ。印刷所を。」
「待って!待って待って!!!変換おかしくないですか!?ちょ、日向さん!?!?」
誰か日向さん止めてッ!!遠くの方でそんな声が聞こえる。
でも俺の頭では印刷所への殺意だけがその中を支配していたから、制止の声も聞かずと言うか聞こえず、ずんずんと歩を進める。
そこへ丁度 出先から秀一が帰って来た。
「あ!長谷部さん日向さん押さえて!!」
「え?なんで!?」
「いいから早くッ!!」
「え、えぇ~!?」
意味もわからず秀一が俺を後ろから羽交い締めにした。
「っ、おい!!離せ秀一!!!俺は印刷所のやつらを殺って来なきゃならねぇんだよッ!!!」
「はぁ!?そんなん聞いて離せるわけないだろ!!!げっ!!お前ハサミ持ってるじゃん!?捕まるぞ!?!?」
「行かせてくれ、奴らを殺れれば捕まっても俺は本望だッ!!!」
「落ち着け明日香!!お前の気持ちは分かる、だが早まるな!!考え直せッ!!!」
「…ッ、クッソ…、こんな、こんな仕事………」
「…?…明日香……?」
急に大人しくなった俺に秀一が恐る恐る声をかける。
「絶対……ッ、辞めてやるぁぁああああああああッ!!!」
「うぉッ!!」
秀一を振り払い、今まで生きてきた中で一番と言うぐらいに大声で叫んだ。
その声にざわざわとし出す編集部。
「編集長、日向さんがッ!!」
「いやぁ~、あれはもう俺には止めらんねぇなぁ…そのうち治まるって。まぁ放っとこうや。」
そう言うと編集長はぷかぁと煙を吹かした。
そんな…編集長……助けを求めた同僚がそう言いながらこちらを振り替える。
「うがぁぁああああああッ!!!!!」
「明日香!!明日香ぁぁああああああッ!!!!」
「……………」
「………………」
「……な?無理だろ?」
「そうッスね……。」
「ふぅ~……、長谷部頑張るなぁ~…」
「……編集長、どさくさ紛れに煙草吸わんで下さい。ここ禁煙ですよ。」
「…………」
「…ちょっと編集長、聞こえてるでしょ、返事してください。」
「俺知らな~い。」
「編集長!!」
「うぉぉぉおおおおおおおッ!!!!」
「もぉお!彼方くぅぅうんっ!!助けてぇぇええええッ!!!!!」
「禁煙!!!」
「知らーん。」
カタカタカタッ……
「…………ッ、」
その時、一人黙々と仕事をこなしていたもう一人の同僚がゆっくりと立ち上がった。
「あんたら……いい加減に仕事をしろぉぉぉおおおおおおおッ!!!!!!!!」
……その同僚の声は、その日社内全体に響き渡ったと言う。
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