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第26話

「八神ー、俺先に行くからな」 「待って待って待って!!もう俺も出るから!!」 走って玄関までくる八神、靴をはいて一緒に家を出ると「あ、そうや。」と言い、俺を抱きしめてくる。眉を寄せて八神を睨むと八神はクスクス笑った。 「あのさ、家におるときは八神でええけど、外では琴音って呼んで。」 「…わかった。」 八神に迫ってくる奴に恋人ではないのではないかと疑われないようにするためなんだろう。一度頷いてから足を動かしエレベーターに乗り込む。 「今日は、送ってくれるん?」 「それは送れっていう意味だろ。」 「うん。送って?」 コテン、首をかしげお願いと両手を合わせて八神…琴音に少し呆れながらもそのお願いを聞いてやる。 「なあなあ、大和の好きなことってなんなん?食べること?飲むこと?」 車に乗り込むと琴音は唐突にそう聞いてきた。 「さあ」 「えー!!じゃあ欲しい物は!?」 「…さあな。」 欲しい物、それは昔から変わらない。けれど琴音にそんなこと言っても意味がないんだと知ってるから何も言わない。 「教えてくれへんのかー!俺はね〜、えっとな〜…」 「思い付かないのかよ」 「いや、あるんやけどな、無理やからなぁって違うこと考えてる」 「無理?」 「…家族のさ、愛情?欲しいよな〜って。」 ヘラリと笑う琴音、だけれど声は明らかにさっきより沈んでいた。 運転中で手が離せないから抱きしめてやることはできないけれど、片手を伸ばして琴音の頭を撫でる。 それくらいしかできないが、琴音はそれが嬉しかったようで、俺の手を掴んでそのまま離さなくなった。 「なあ、仕事終わるのいつ?」 「さあ…デカい仕事は入ってねえから、そんなに遅くならないと思うが…何かあるのか?」 「んーん、遅いんやったら寂しいから、どうしよっかなぁって思っただけ。」 「そうか…」 そこから琴音を学校の校門前で降ろしてやるまで会話はなかった。けれどそんな静かな時間も気まずくはならなくて。車から降りてブンブン手を振る琴音に小さく手を振り返し、俺は組に向かった。

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