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第57話 琴音side
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ずっと友達は作ったらあかんって言われて、学校はつまらんし、帰ってきて宿題終わらせたら何をすればいいのかいつも悩んでた。
やけどうちには飼ってる犬がおって、悩んでる頃に庭で犬のサクラがワンワン吠えて、部屋の窓から下を見れば、俺を呼んでるみたいに、こちらを見上げてるサクラの姿があった。
すぐに庭に出てサクラを抱きしめて一緒に遊ぼって庭を走り回る。夕方には疲れてヘトヘトになって、たまに日陰で寝転んで休んでたりもしてた。
なのに、そのサクラがある日おらんくなった。
俺を呼ぶあの吠える声も聞こえへん。心配なって庭に出て探したのにどこにもおらへんくて、家で働いとる御使いさんに「どこいったかしらん?」って聞いても黙って首を左右に振るだけ。
もしかしたら親は知ってるかもと思って、嫌やけど母さんのところに行った。
「母さん」
「あら、どうしたの?」
「…サクラ、どこいったかしらん?」
「ああ、あの子ね。ここにはもういないわよ」
そう言われてショックで声が出んかった。ヘナヘナってうまく力が入らんと地面に座り込んでまう。
「あら、そんなところに座ったら汚いわ。ちゃんと椅子に…」
「何で!?どこおんの!今サクラはどこおるん!!」
「大きな声出すのやめてちょうだい。うるさいわ。…サクラは父さんから聞きなさい。でも、もうここにはいないわよ。それに……あたしは言ったわよ。友達は作っちゃいけないって」
腹立って母さんに詰め寄り母さんのことをドンって両手で強く押した。びっくりする母さんはたちまち怒った顔になって俺の顔をパンって叩く。
「母さんにこんなことするなんて…」
「…お、俺が何してん…なんで友達作ったらあかんねん…サクラと遊ぶのが、好きやったのに…サクラは俺の…」
視界が涙で歪む。本当に大切なものを知らないうちに取られてその理由がいまいちわからんから余計に苦しい。
「母さんはあなたの為にこうしてるの」
「俺の、為やったらこんなことすんなや!!」
母さんに掴みかかろうとすると母さんが大声あげて御使いさん呼んで俺を羽交い締めにした。
そのまま連れ出してって汚いものを見る目で俺を見る、そんな目で見るなって汚いのはお前やって思いながらも、閉じられるドア。閉まる寸前に、母さんが見えなくなる瞬間に、死ねって呟いた。
「母さんに手だしたって聞いた」
「………」
「琴音、聞いてるんか」
夜、仕事が終わってから父さんが俺の部屋にやってきた。それすら腹立って話もなんも聞く気なんてなくて。
「聞かへんわ!どうせ全部俺が悪いんやろ!?何も知らんと、今までもそうやって頭ごなしに怒ってきた!!大嫌いや母さんも父さんも!!」
そう怒鳴ったら父さんは怒鳴り返してくる。その言葉はあんまり俺の中に入ってこんくて、でも最後の言葉だけ頭の中にスッて入ってきた。
「…中学校を卒業したらここから出て行って一人暮らしでも始めろ。お前がここにおったら空気悪なるわ」
その言葉が嬉しかった、ここから出ていけるんやって思うと幸せやった。けれどやっぱりサクラに会いたくて父さんに詰め寄って場所を聞く。
「はあ?サクラ?あの犬のことか?…もう死んだで」
「は?」
死んだってなんや思って言葉の意味をどれだけイメージしても理解はできやんくて、段々と呼吸が荒くなる、上手く息が吸えへんで苦しいのにそれが今は心地よかった。
「おい琴音!ちゃんと息吸え!…おい誰かおらんのか!!」
父さんが俺の背中を撫でてドアの向こうの御使いさんたちを呼びつける。手が固まって動かなくて怖い。死ねるかなって口の端をゆっくり持ち上げて声にならない声を発す。
「…だぃ、きら、…っ、いゃ…」
そうして視界は暗くなった。
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