夜になり、八神の携帯を八神の一人暮らしをしていた家に持っていく。GPSが付いてるからもうすでに俺の家にいたことはバレてるかもしれないが、何もしないよりかはマシだ。 「今日からはこっち使っとけ」 「うん」 「で、今から組に行くけど、大丈夫か」 「大丈夫。大和、おるもん」 車の中、八神の髪を撫でてそのまま組に向かう。少しだけ怯えているのか顔色が悪い八神にもう一度「大丈夫」と言い厳つい門をくぐって車を止めた。 「あっれー？早河、何でまた来たのー？」 「赤石か…何でまだいるんだ」 「仕事に決まってるでしょー！これから久々に暴れてくるんだよー」 「…気をつけろよ」 「うん、…って、誰そいつー」 車を降りると絡んできた赤石。俺の後ろで隠れるように立ってる八神を訝しげに見た。 「ちょっとな。…親父はいるか」 「いるよー。ついでに八田もいるし、中尾もいるし…中尾に関してはゲームのキリがいいところでセーブしたら帰るって」 「…そうかよ」 黒い服を着た赤石は後ろに数人連れて組を出て行く。暴れてくる、ということは繁華街の見回りか何かだろうか。大きい仕事ならまず俺に連絡が来るはずだし、そんなに心配することはないか。 「大和…？」 「ああ、悪い、行くぞ」 「うん」 俺の服の裾を掴んで、俺が歩く後ろを足音を立てずについてくる八神。組の奥に位置する親父の部屋の前に立つと何かを感じたのか、ブルリと一度大きく震えた。 「こ、ここ、偉い人のとこ…？」 「ああ、俺らの頭だ」 それだけ言って「失礼します。」と部屋に向かい声をかける。中から親父が「早河か、入れ」と返事が来て、静かに扉を開けた。 「どうした」 「親父にお願いがあります。…その前に…こいつの紹介させてください」 「ああ」 「八神琴音です。いろいろあって今、俺と一緒に住んでるんですが…」 「…ああ、前に言ってたな…本当だったのか。お前が他人と暮らすなんてなぁ。で、八神、だっけか」 笑い混じりでそう言った親父は笑顔を浮かべて八神の名前を呼ぶ。 「は、はい」 「早河がお前を俺に会わせたってことは、お前は信用できるやつだと思う。取って食いやしねえ、怖がるな」 「え、っと…あ、ありがとう、ございます」 ガチガチに頭を下げた八神に親父はケラケラと笑いその頭をワシャワシャと撫でてやってる。 「で、お願いって何だ」 「はい、それが…」 八神のことを説明して今がどういう状態かを知らせると眉を寄せた親父。USBを渡し「ここに八神の両親が行っていた事についてのデータが入ってます」と言うとそれを軽く握ってコクリと頷いた。 「これを、もしお前が危ない状況になったら、世間にばらまけって事だな。」 「はい」 「それなら、仲のいい警察がいるから、そいつに頼んでやって貰う。それでもいいな？」 「はい。お願いします。」 「わかった。…で、八神はどうする、うちで匿っておくか？」 え、っと困ったみたいに俺を見上げる八神。俺は小さく笑ってコクリ頷いた。 「少しの間、お願いします」 「え、待って、大和、俺聞いてないっ」 「悪い」 「嫌、嫌や…そんなん、俺…っ」 俺の腕を掴んで嫌だ嫌だと涙目になりながら訴えてくる八神を親父が「やめろ」と言って止める。 「やる事終わらせたら、こいつはすぐに帰ってくる」 「でも…」 不安そうだけど、俺はお前に言ったはずだ。 「辛い事でも、頑張るって言っただろ」 「う…っ」 「連絡はいつでもしてきていい、ちゃんと全部が終わったらすぐに迎えに来る。」 「う、ん」 抱きついてきた八神。そっと俺も抱きしめ返したところで、親父がニヤニヤと笑っているのを見て慌てて離した。