77 / 149
第77話
「そうかそうか、お前らは付き合ってるんだな」
「あ、の、親父!」
「言わねえよ、別に。」
「大和、大和!親父さんにバレたんやからいいやろ?お願い、一回だけキスして」
「それとこれとは、」
「してやれよ」
親父にもそう言われて仕方なく…なんて嘘で、本当は俺だってこいつと離れるのは嫌だし、寂しいと思う。だからキスができる事が嬉しく思えた。
唇を合わせて涙を目に貯める八神。少しして離れると安心したように小さく微笑んだ。
「俺、頑張る」
「ああ」
「大和も、頑張って…」
「すぐ帰ってくる」
後ろ髪を引かれる思いで親父の部屋を出て、廊下を歩き乗ってきた車に乗り込む。
さて、とりあえずいざという時は親父があれを公表してくれるし、俺は俺の思うように動けばいい。
一人で家に帰ってソファーに沈む。風呂に入ろうか、としたところで早速八神から電話がきた。
「はい」
「大和…?」
「どうした」
「やっぱな、寂しい…。あのな、ハルもおるし、いけるかなぁ思ってんけど、大和やないとあかん」
「…ちょっとの辛抱だ」
「大和も寂しい…?」
「ああ、すげえ寂しいよ」
そう言うと電話の向こうでクスクスと八神が笑う。それから甘えてような声でまた俺の名前を呼んだ。
「好き、大好き。帰ったら大和にめっちゃ甘えてもいい…?」
「ああ」
「ふふっ、───あ、ハルに呼ばれたから行ってくるね」
「おう、おやすみ」
「うん、おやすみ」
通話を切る、途端襲い掛かってきた寂しさにため息を吐いた。
いつの間にかこんなにも八神に溺れてしまっている、本当は寂しいという八神を今すぐにでも抱きしめてやりたい。
「早く、片付けねえと…」
じゃないと、あいつが泣いてしまうから。
ともだちにシェアしよう!