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第78話
翌日、いつ八神の親が八神の家に来るかわからないから適当に用意を持って八神の家に行った。八神と別れた時鍵をもらっておいてよかった、と安堵する。
八神の部屋の所々、物陰にボイスレコーダーを設置していつでも録音を開始できるようにした。
いつもの八神の匂いがする部屋、無遠慮にソファーにごろりと寝転ぶと襲って来る眠気。
ちょっとだけ寝させてもらうか。と目を瞑ると五分もしないうちに寝てしまった。
***
誰かが泣く声が聞こえる。
小さく小さく啜り泣く音。
広い部屋で小さな男の子が膝を抱えていた。
震えていて目元を何度も手の甲で拭うその子に声をかける。
バッと振り返った男の子、顔を見ると驚いた、八神にそっくりだから。ああ、そうかこれは八神の小さい頃のことなんだ、となんとなく確信して「大丈夫か?」となるべく優しい声で言うと俺を見てふんわりと笑った。
「大丈夫、俺、強いから」
「へぇ…」
「し、信じてへんやろ!」
小さい頃の八神には会ったことがない。でも八神は初対面の俺に驚くわけでもなく、怯えるわけでもなく、ただ優しく笑う。
「俺、母さんと、父さんと、お手伝いさん以外、話すことあんまりないから、今、すごい嬉しい」
「友達、欲しいか?」
「…ほしい、あんな、友達と鬼ごっこしたいし、隠れんぼだってしたい!……でも、あかんねん」
笑顔が崩れる、それから顔を伏せてまた泣き出した。
そっと抱きしめると子供らしく声を上げて泣く。俺の服を掴んで離さない八神を抱き上げて、泣き止むように背中を撫でてあやすといつの間にか眠ってしまっていた。
子供に与えるには大きすぎるベッド、そこに寝かせてやるとゆっくりと目を開けて嫌だと首を振った。
「抱っこ、してて」
「…ああ」
「ふふっ」
また八神を抱き上げて寝かせる。八神と小さい時に触れられた。それが嬉しく思えた。
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