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第80話
その日は八神の家に泊まった。
また次の日になって今日、きっと八神の親がここに来る。
地味に緊張している、どんな状況であれ、好きなやつの親に会うのは緊張するもんだ。
いつ来るのか、とジッとしていたらガチャン、と玄関で音がした。鍵が開けられたらしい。ソファーに寝転んでいたが起き上がって玄関に続く廊下をジッと見ていると女がボディーガードらしき男を2人連れて入ってきた。
「あら?ここは琴音のお家じゃなかったかしら?」
「あってますよ」
軽く笑って女に言葉を返せば「不法侵入?」なんて聞いてきやがった。お前の方こそだろ、八神はお前に鍵を渡してないと言ってたぞ。
「琴音はどこなの?」
「その前に、話がある」
「…話…?まあ、いいわ、何?」
椅子に座った女、ふふっ綺麗に笑う。
その笑い方が八神に似ていてなんだか少しだけイラっとした。
「八神……琴音を、自由にしてやってくれ」
「自由に…?」
「あいつの好きなように生かせてやってくれ」
「…好きなように、させてあげてたでしょう?高校生になってからずっと。作るなって言った友達を作って、あなたもその一人なんでしょう?」
ふん、と鼻を鳴らした女。そう簡単に聞いてくれるは思ってない。
「……もし、琴音を自由にしてやらないなら、俺にも考えがある」
「そう」
「お前らの今までしてきた悪事を、世間にばらまいてやる。」
優雅に口元に笑みを浮かべていた女の顔色がサッと一瞬で変わった。それからまた笑みを顔に貼り付け「何のことかしら」なんて言い出す。
「自分達の為なら、人殺しだってしちまうんだもんな。薬にまで手を出して、そりゃあそれが琴音に知られて、琴音の口からポロっと出ちまって誰かに知られたら困るよな」
「あんたっ」
「だから、友達も作らせなかった。あいつはずっと一人だった」
「何で、あんたがそんなこと知って…」
女は立ち上がって俺の胸ぐらを掴んでくる。至近距離で睨まれて少しして離された。
「あんたが、死んだら、世間にばら撒かれるって危険もなくなるわ」
「…………」
「ねえ、殺されるか、死ぬまで監禁されるか、どっちがいい?」
「どっちも御免だ」
「……そ、なら私が選ぶわ。今ここで、殺してあげる。」
キッチンに言った女は包丁を取り出して俺に突きつける。躊躇なく俺に向かい走ってきた女。こんな経験何度だってあるから怖いとは思わない。ただ死んだら八神が悲しむだろうなぁ、ってだけ。
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