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第84話 早河side
八神がそこにいる。
小さくなって泣いている。
手を伸ばし触れたらびっくりしたようで、俺を振り返って柔らかく笑った。
「おかえりなさい」
そうして俺の首に腕を回す。
だけどすごい違和感。
「た、だいま」
「お疲れ様」
「ああ」
八神の胸が俺の胸に合わさる。
トクトクと小さく鼓動が聞こえてきて安心するはずなのに、不安が俺を駆り立てた。
「や、がみ」
「琴音、琴音って呼んで」
「琴音…」
小さい体、抱きしめると折れそうで怖い。
「なんか、違う」
「何が?」
「琴音じゃない」
「何で?俺、琴音やで?」
違う、俺の知ってる琴音はこんなんじゃない。
「あのな、俺、友達できてん」
「ああ」
「友達、すごい嬉しいねん…」
俺の首に何度も唇を押し付けてくる。俺を小さな体で押し倒して好きだと何度も言う。
「もう、一人やない…」
「…嬉しいか?自由になれて」
「うん。だから、もうこれで最後」
小さい八神は俺の頬を両手で包みキスをしてきた。
「俺に、会うのは、これで最後」
「お前、に…?」
「寂しいって、泣いてる俺に」
「………」
「早く、目を覚ましてあげて。待ってるから」
「誰が」
「大和のそばで、ずっと待ってるから」
八神が白い光になって消えた。途端、ぐらり、視界が揺れる。何だ、と勢いよく目を閉じた。
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