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第102話
「いい考えが思いつかない」
「…いや、別にいいねんけどさ」
「よくないよ!…よし、これから琴くんのこと俺が送り迎えするね!」
「…家全然違う方向やん」
「でも、琴くんが心配だよ」
ニコッとさっきとは全く違う優しい表情に戻ったハチが、突然強く抱きついてきて「きっと大丈夫だよ!」と笑った。
「不安になったら言ってよ。俺、話くらいは聞けるからさ」
「…ありがとう」
すごくええ友達を持ったと思う。恵まれてるなって思った途端自然と涙が溢れてきて、目から零れていく。
「琴くん、泣かないでよ」
「…泣きたいわけちゃうんやけどな」
「…そうだよねぇ、よしよし」
まるで小さい子供にするように頭を撫でられて、普段なら絶対こんな姿見せへんのに、何だかおかしく思えてふふっと笑う。つられたように笑ったハチにひどく安心した。
***
帰る時間になってハチと一緒に家に向かう。
他愛もない話をしてる内にすぐにマンションについて、マンションの入り口で別れてエレベーターに乗り、部屋に入るとまだ大和は帰ってきてなくて、肩を落とした。
「…大丈夫かなぁ」
今日も明日も、いや、これからずっと…何もなければいいのにって、心底思う。
テレビでケラケラと笑ってるお笑い芸人を見て「呑気に笑いやがって」なんて思ってしまった。
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