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第104話
そんなことがあった日の翌日。
学校を休んで幸せ満点な気分で大和と買い物に。
人目も気にせずに手を繋いでルンルンしながら。こんな機会滅多にない。だからこそ楽しくて楽しくて堪らない。
「何買うん?」
「何が欲しい」
「えー…じゃあ、大和の吸ってる煙草」
「お前なぁ…あんまり吸うなって昨日言っただろ」
「でも、大和と同じ匂いなれるやろ?」
ほんのりと香る煙草の匂い。俺はそれが好きなんやもん。
「あかん?」
「そんな顔で見るなよ…。わかったから」
すぐ傍にあった自販機で煙草を買う。
「吸いすぎるなよ」
「はぁい」
手に乗せられたそれが嬉しくて思わず笑顔が零れた。
その後は服やら日用用品やら、いっぱい買って車に戻る。短かったけど楽しかった買い物の時間、このままそれが楽しかった時間、で終わればよかったのに────…
「おい、しっかり掴まってろ」
「え、何?」
「追われてる」
振り返ろうとした俺の頭をグッと押さえた大和は「後ろを見るな」と低い声で言って、一気に車のスピードを上げた。
「チッ、悪い、俺の携帯から鳥居に連絡してくれ」
「うん」
渡された携帯、連絡先から鳥居さんを探して電話をかけスピーカーにする。
「はーい」
「追われてる」
「…田中ですか?」
「多分な、親父と若と、命に報告してくれ。」
「早河さんは大丈夫なんですか?」
「多分何とかなる」
「じゃあまあ、死なないでくださいね〜」
それだけ言って通話は切れて、何や今の!って腹が立ったんは仕方ないと思う。
「チッ、挟まれた」
「大丈夫なん!?」
「…悪い、巻き込んじまって」
「そんなんええよ!それより…」
そう思ってると突然乾いた音がなって、車が大きく揺れる。
「…あー、やっちまった」
「え?」
キキッと車が止まり、その周りを黒い車が囲んで、そこからはぞろぞろと人が出てきた。
「や、まと」
「田中組だ」
「た、助け呼ばんとっ」
「今連絡しても意味ねえよ」
ふぅ、と息を吐いた大和は胸ポケットに入れてた煙草を取り出して口に咥え火を点けた。
「早河ぁ、出てこいよー!」
外からそんな声が聞こえて思わず震えて怯える俺に、大和は優しく笑って俺の頭をくしゃくしゃと撫でる。
「隙を見て逃げろ」
「いや、待って、いややっ」
「大丈夫」
車のドアを開けて外に出て行く大和。それを必死で止めようと腕を伸ばしたけど届かへん。
「はーい、こっちの男も捕まえた。」
「っあ!」
俺の方のドアが開いて外に引きずり出される。
大和は煙草を吸ったまま余裕な風に立って相手を見据えていた。
「おい早河ぁ!」
「あ?」
大和が鋭い目をしながら俺を拘束する男を振り返る。
「こいつ、お前の大事なやつなんだろ?」
「……だったら?」
「預かっておいてやるよ。この抗争が全部終わるまでな…ああ、その時はお前もこの世にはいねえか!」
ケラケラ笑う男に俺の体温はだんだんと奪われていくのがわかる。
「お前は早く浅羽に戻って知らせろ。始まったってな」
頭の中で"始まった"って言葉が何度も響く。
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