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第108話

*** 「琴音」 「…………」 「返事くらいしろ」 「いっ!」 思い切り腕を噛まれて痛みが走る。 ギロッと若頭さんを見ると楽しそうに口元を三日月に歪めていた。 「まだ躾ないとだめか?」 「…ごめんなさい」 この人のいう躾はひどい。 一度逃げ出そうとして、それがバレて捕まった時は空イキ地獄が待ってた。名前を呼ばんかった時は尿道プレイ、言われたことをしなかった時なんて…ああもう、思い出しただけでも寒気が走る。 「ここに来て一ヶ月経つが…慣れたか?」 「そんなわけないやろうが」 「…その口の悪さ、どうにかなんねえかな」 「いった…」 今度は思い切り唇を噛まれてそこから血が滲む。 「琴音、俺の名前を呼べ」 「…そーいちろー」 「…ちゃんと呼べ、酷く抱いてやろうか」 「宗一郎さん」 ニヤニヤ笑う若頭さんは「良い子だな」と言って俺の頭を撫でる。けど違う、俺はその手に撫でられたいんやない。 「なあ、抗争、どうなってんの」 「ああ?確か向こうの幹部に怪我人が出たそうだぞ。それ以降は何も進展してねえ」 「…だ、誰?」 「何だっけか、八田って言ってたな」 安心したらあかんのはわかってるけど、大和やないことにホッとした。それを見逃さんかった若頭さんは思い切り俺の頰を拳で殴りつける。 「次は早河を殺してやる」 「…やめて」 「あ?」 「やめて、ください」 殺すなんて、そんなん嫌や。 ジッと若頭さんを見ると、俺が下手に出てお願いしてるのが気持ち良いのか口元を歪める。 「俺に、抱いてくれと言え。そしたら早河は殺さない」 「……………」 「言えねえのか?早河はいいのか?」 「っ、…俺を、抱いて…ください」 そうしてまた黒くなる。 だんだんと色がなくなっていく世界。 それを拒絶するように目を閉じた。

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