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第118話
「ぁ…」
小さい声で名前を呼ばれた気がして目を開けると、体は綺麗になっていて不快感はなく、服を着せられてベッドに寝かされていた。そんな俺の髪を若頭さんが触っている。
起きた俺の様子をずっと見ていたらしい。口元に柔く笑みを浮かべて小さく「おはよう」と言った。
「…俺、もうあんなんいやや」
「そんなこと聞いてねえよ」
キスをしてきた若頭さんはそのまま俺の横に寝転がって俺を抱きしめる。
「…浅羽が変な動きをしてる」
「そんなこと聞いてへんよ」
さっき言われたことをそのまま返すと鼻で笑って俺の耳を強く噛んだ。
「いったい!」
飛び起きて若頭さんのお腹をパンっと叩く。
「生意気言うからだ」
「もう俺、帰りたい…家帰らせて」
「無理だな」
急にこんな所にいたくないっていう感情が湧いてきて、小さい子供が駄々こねるみたいに喚き散らす。
「嫌、嫌や…う、も、帰りたい…っ、」
涙がポロポロ溢れて止まらない。
「…帰るったってお前、どこに帰るんだよ」
「…っ、」
「お前の親はお前のことを放ってるし、唯一信頼してた早河には裏切られ…なあ、どこに帰るつもりだ?」
「や、めて」
その言葉が苦しくて耳を塞ぐ。
「お前が帰る場所はここだろうが」
「…違う、違うっ」
呼吸ができない、苦しい。
耳を塞ぎ目を閉じて泣く俺を若頭さんは優しく抱きしめて「琴音」と名前を呼ぶ。
「お前を愛してやれるのは俺だけだ」
「…ふっ、ぁ…」
「だから、もうそうやって泣くな」
耳を塞いでいた手を取られキスをされる。
違う、欲しいのはあんたじゃない。
「琴音」
「あ、ぁ…そういちろ、宗一郎っ」
「お前には俺だけしかいねえんだよ」
熱い舌が頰を流れる涙を舐めとる。
宗一郎に抱きついて匂いを嗅ぐ。甘い匂いがだんだんと気持ちを落ち着かせてくれて、涙も止まり、放心する俺に「大丈夫だ」と優しい声をかけてくれた。
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