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第123話
骨と骨がぶつかるひどい音がした。
頰に走る痛み、くそ、命に殴られた。
「お前、何したかわかってんのか」
「逃げようとした敵を撃った」
「八神は敵だったのかよ」
「田中の若頭を庇ったんだ」
トラのいる病院の廊下でそんな話をする。
…本当は撃ちたくなんてなかった、だけど俺にはああする他にいい案が浮かばなかった。
「俺にとっては組の方が大切に思えたから」
「…ああそうかよ、じゃあもうずっと仕事してろ!!」
一人になった廊下でじゃあどうすればよかったんだと考える。
もしあのまま田中の連中が外に出ていたら間違いなく裏を固めていた八田に撃たれただろう。そうすると八神にも玉が当たるかもしれない。そうなるくらいなら俺が撃った方がマシだと思った。そうして、仮に八神が死んだとしても、俺はずっとその罪を背負って生きていくことができる。八神を忘れずに居られるんだから。
はぁ、と溜息を吐いてると「は〜やかわ〜」と間延びした声が聞こえてきて赤石か、と眉を寄せる。
「みっちゃんキレてたけど、喧嘩したの〜?」
ニヤニヤと笑ってる赤石に、事情は全部知っているんだってことを確信した。
「うぜぇ、どうせ全部知ってるんだろ」
「うん、知ってる。お前あり得ない」
ニヤニヤとした笑顔をやめない赤石に腹がたつ。
そんな赤石に胸倉を掴まれたら余計に。
「あの子はきっと、お前に迷惑がかからないように田中のいうことを守ってきていたんだと思うと、お前がした仕打ちは最悪だよ」
「………………」
「トラから、聞いた?あの子の肩のところ、いっぱい根性焼きがあるって」
「…知らない」
「最近できたものもあれば、1.2ヶ月経ってるやつもあるって。あの子が攫われたのはちょうど3ヶ月と1週間前、でしょ」
田中に連れ去られている間に酷い傷を作ってた。そう考えると申し訳なさより先に怒りが湧いてきた、けれどここで俺に怒る権利はない。
「お前がそうやってうじうじしてるなら、もう一層の事、あの子田中の若頭にあげなよ。」
「、っ」
「二人とも、仲良いみたいだし」
「…で、も」
「でも、何?例えばあの根性焼きを田中の若頭がつけたとして、それでもあの子はそいつを庇ったんでしょう?もうあの二人は許し合ってるんだよ。ね、ほら、どっちの方があの子を幸せにできると思う?」
すぐに「俺だ」と言えないのがこんなにも苦しいことなんだと、俺は初めて知った。
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