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第129話
「琴音!」
宗ちゃんの部屋やったここのドアが勢いよく開けられて、現れた人とバチッと目があった。煙草を灰皿に押し付けて日を消し、その人をこれ以上ないくらい冷めた目で見てしまう。
「…何しに来たん?」
そんなに荒い呼吸して、まるで俺を必死に探してたみたいやん。
ほんまに、今更何しに来たん、
────なあ、大和。
「…それ、離せ」
「それ…?」
大和の視線が俺の血に濡れてる右手に向けられる。
それに鼻で笑った。
「あんたの言うことなんか聞かへんけど」
「……頼むから、離してくれ」
「頼まれても無理」
ニコッと笑ってみせると眉間に皺を寄せて「琴音」と小さな声で名前を呼ぶ。
「ここから出てって。俺と、宗一郎の場所やから」
「…っ」
「俺の、唯一の帰る場所やねん」
一向に出て行く気配のない大和にイラついて強く拳を握り自分の掌を傷つける。
ベッドから降りて大和に駆け寄り胸をドン、と殴りつけた。
「出てけや!!俺のこと捨てたくせに今更心配してる様な態度とるな!!」
「…捨ててなんか…」
「はぁ?よく言えたな、あの時"終わりだ"って言うたんはどこのどいつやねん!!」
ふざけるなって、堪えきれなくなった涙が散る。
「そのくせに…巻き込んだのはそっちのくせに…また、俺から奪うんや…もう……」
もう、生きてるのが辛い。
こんなにも辛いなんて思ったの、初めて。
やっぱり、死ぬのが一番や。
大和から距離を取りガラス片を首筋に当てる。
ハッと目を見開いた大和は「やめろ」と震える声で言った。
「こうしたら、もう誰も俺から何かを奪おうとしやんやろ…」
「…頼む、やめてくれ」
「俺のこと撃ったくせに、目の前で死なれるのは怖いん?」
「琴音っ!」
「俺、不思議やけど、死ぬの、怖くないで」
目を閉じて、あとは引くだけ。
「これでほんまに、終わりや」
嫌なくらい、何度も頭の中を反響していた"終わり"って言葉。
今度はそれを俺が大和へ送って、手に力を込める。その瞬間、目尻に残っていた涙が散った。
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