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第132話
「自分を傷つけないで」
「…はぁい」
目の前に座るトラさんが眼光鋭く言う。
それにはどうも納得がいかんかったけど、適当に返事をして、建物の外で待ってる大和のところに足を進めた。
「お待たせ」
「トラなんだって?」
「さあ。なんやよくわからへん」
車に乗り込んで小さく息を吐く。すぐに車は発進して、シートベルトを締めると不意に右手に巻かれた包帯が目に入り、邪魔に思って取ろうと思ったけど、これを取ったら傷が見えるし、そしたら大和が悲しそうな顔するから我慢しよう。
「…煙草吸いたい」
「ん」
煙草をもらって、あの日宗ちゃんに貰ったジッポーで火を点け、窓を開けて外に煙を吐く。
「なぁ」
「何だ」
「俺さ、大和のことすごい好きやってんけどな、宗ちゃんに一回移ってもうたやろ」
「…それは仕方がないことだろ。俺が悪かったんだ」
「それでも、そうなってしまった俺のこと愛してくれんの?」
「ああ、当たり前だ、一生愛すよ」
その言葉が嬉しくてすごく抱きつきたい気分やけど運転してるからそれは危ないと思って諦めて、外に向かい煙を吐きながら、ニィッと口を歪めた。
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