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飄々として適当ばかりの有紀の言う「好き」に、今までは冗談の「好き」だと思っていた。なのにこうも真剣に伝えられると冗談だと茶化せない。 好きだから番になりたい。俺も好きになった相手と番になりたい。想いは同じだ。 俺が有紀と番えば、オメガの俺はもちろん依存に悩む有紀もお互い救われる。だからと言って今この瞬間に、有紀のことを恋愛としての意味で好きかと聞かれると自信を持って頷くことは…やはりできない。 『睦人の番、俺じゃ駄目か?』 「………」 そういえば佳威はどうして俺にあんなことを言ってきたんだろう。思い出してみると好きだ、とは言われなかった。もちろん佳威が俺のことを好きだなんて思うほど自惚れてはいない。 佳威は無かったことにしてくれって言ったけど――本当に無かったことに、してもいいんだろうか。 「おやすみ、リク」 「…ん。おやすみ」 有紀は俺を離す気はないのか腕を回したまま体の力を抜いていく。窓から差し込む月の光が優しく室内を照らし繊細な睫毛に影を落とした。 無防備な顔を見つめながら、同じ布団に幼馴染がいるという感覚に静かに睡魔が襲ってくる。 変わらない有紀と、 変わってしまった渥。 いや、有紀も変わっていないとは言い難い。桐根学園で彼らの性格が形成されたのかと思っていたけれど、有紀の話を聞く限り桐根ではなく彼の両親が関係している気がした。 『父さん達が離婚して、渥もおかしくなって…』 両親の離婚。 原因は…なんだったんだろう。 「……有紀」 小さく名前を呼んでみるが、既に意識は夢の中なのか反応は無かった。 …なあ、俺はどこまで踏み込んでいい? どこまでお前らの過去に、現在に、関わってもいいんだ。 有紀の言ったことを、別に守らなくたっていいのかもしれない。決められなかった、と先延ばしにしたってそんなのは俺の自由だ。 分かってはいるけど、それでも俺は次のヒートまでに何らかの答えを出さないといけない気がした。 少なくとも、隣で眠るこの年下の幼馴染には真剣に答えてやらないといけないと感じる。友達のままでいるのか、番になりうる相手として見ていくのか。答えによっては関係が変わってしまうことが分かっていても ヒートの始まったΩが長くフリーで居るメリットは何もない。それはΩ自身にも傍に居るαにとってもだ。 瞼を閉じる。体に感じる腕の重さが心地いい。 昔は背中の後ろまで腕が回ってなかったのになあ。 『ぼく、本当の子どもじゃないの?』 落ちる意識の中で、泣きそうな小さな子供の声が聞こえた。

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