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パチ、と目を開けると先程まで見ていた自室の壁ではなく、懐かしい勉強机の足元が飛び込んできた。
首だけを動かして周りを見渡せば見覚えのあるカーペットや姿見、机の上には戦隊モノの目覚まし時計。
後ろに首を向けると濃紺のシーツの先で、チラリと覗く艶のある黒髪が見え、窓から入り込む月の光が暗闇に落ち着いた空間を作っている。
背後にある自分が使っていたベッドから顔を戻し、胸元を見下ろせば色素の薄い栗色の髪が目に入り込む。頭の位置こそ違うものの、先程と同じような光景につい頬が緩んでしまった。
ここは昔の俺の部屋だ。
八歳か九歳か、そこらへんの。
見渡した状況から察するに、俺のベッドの上で寝ているのは幼い頃の渥で、床に布団を敷いて俺に抱きつく様に眠っているのは有紀。渥たちの両親が仕事で遅くなる日は、よく俺ん家で三人で寝てたっけ。
俺はまたもや自分の記憶を自分越しに、まるで映画でも見ているような奇妙な感覚に陥っていた。
「……リク、おきてる?」
小さな声に、小さな俺は「ん」と短く返事を返す。有紀はモゾモゾと布団の中から顔を出して、俺の真横に位置を変える。
記憶の中の有紀は相変わらず儚げな天使だった。
「どした?寝れないのか?」
「んー」
ちなみに確か俺はこの時、寝ながらも有紀の抱き付く力が突然強くなったりするものだから数分前から起きていた。安眠妨害もいいところだが、責めるつもりはない。
現在の有紀ならまだしも、幼い頃の有紀は俺にとって守るべき対象であったし、ましてや嫌なことがあった時にする癖に気付いていて文句を言う程に性格は悪くない。
「…また学校でなんか言われた?」
「……うん」
「ばか、はやく言えよ。なに言われたんだ」
ベッドの上で眠る渥を起こさない様にお互い小さな声で喋る。渥は一人ベッドで悠々と寝ていて身動き一つしていない。
「おまえはほんとうの弟じゃないって。父さんたちの子どもじゃないんだって」
「…はあ?」
「ぼく、本当の子どもじゃないの?」
すん、と鼻をすする音が聞こえた。
瞬間カッとなる脳と連動するように、目の前にある体を抱き締める。痛い時、悲しいことがあったとき、母親はよくこうして俺を抱き締めてくれた。
「本当の子どもに決まってるだろっ」
「でも、…じゃあなんで、ぼくだけみんなと違うの?」
「だから、それは」
有紀は全体時に色素が薄い。渥が黒だとすれば有紀は茶。そして、兄弟の両親はどちらも美しい黒髪と黒の瞳。
だからあの家族の中で有紀は一人だけ浮いていた。
でも母親が違うとか父親が違うわけじゃない。隔世遺伝というやつだ、とおばさんが教えてくれた。
今の俺なら十分に理解できるし意味を説明できるのに、さすがにあの頃は上手く説明できず何度かこのやり取りを繰り返していた。
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