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それもこれも全てはクラスメイトの嫉妬が原因だ。
学校の人気者である渥の弟だというのに、渥とは違う容姿の有紀。しかし飛び抜けて顔が整っていた有紀は当時からクラスの女の子に可愛がられていて、それが気に食わなかったんだろう。体も小さく泣き虫の明らかに弱そうだった有紀はいいターゲットだったらしい。
「有紀のな、おじいちゃんのお母さんが有紀みたいにやさしい髪の色してたんだよ」
「やさしい…?」
柔らかなほっぺが枕に落ちて、キョトンとする有紀。
「やさしいだろ。渥の黒髪はきれいだけどつよそうだし、俺のは黒に近いけど焦げ茶も入ってて中途半端!でも有紀のはやさしい色してる。俺は、好きだよ。お前の髪の色も瞳も」
コソコソ話をするように伝えると、目の前の天使がふふっと笑う。漸く笑ってくれたと安堵した。
「それに大人になったら髪の色なんて何色にだってできるんだぞ?金髪とか赤髪とか」
「えー?きんぱついいなあ」
「だろ?だから今だけだよ。今度なんか言われたら隔世遺伝なんだよバーカって言い返してやれよ。お前らそんなのも知らないのか?って。それか俺が言ってやるから」
「髪色なんて大人にならなくたって、今からでも変えられるけど」
「!?」
寝ていたとばかり思っていた渥の声が聞こえて、俺の体が飛び跳ねる。有紀の方からは見えていたのか驚いてはいなかった。
「びっくり、したー!なんだよ、起きてたのか」
「さすがに起きるよ」
ベッドを見上げると渥が肘をついて俺達を見降ろしている。眠いのか目が少し不機嫌そうだ。
「家で染められるんだ。まあ、先生にも父さん達にも怒られるだろうけど」
「どうせすぐに戻せって言われるだろ」
「有紀はどうしたい?今すぐ変えたいなら明日俺が内緒で買ってきてやるけど」
渥は何が面白いのかニヤニヤ笑っている。あんなクールな見た目で結構イタズラ好きなんだ。きっとワクワクしてる。でも怒られる時は一緒に怒られてやるつもりで首を突っ込んで来たんだろうな、あいつのことだから。
有紀は渥の方をジーと見つめていたが、俺にチラリと視線を寄越すと、ゆっくりと首を振った。
「いい。…今はぼく、このままでいい」
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