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第11話
「そういやお前、夏休み実家帰んの?」
「うん、一応ね。中学の友達から遊ぼうって言われてるし」
「祭りは?今年はやめとくか」
「いや、行くよ。毎年会うの楽しみだって言ってるだろ」
「あっそ。睦人…は今実家だよな。夏休みどーすんだ」
「………夏休み?」
教室で二人が会話しているのを聞いていた俺だったが、突然佳威から向けられた問い掛けに目が点になった。
転入してすぐに色々あった事や、変な時期に転入してしまった所為で夏休みの存在をすっかり忘れていた。
というか転入してすぐに夏休みなんて、俺なかなかデンジャラスな時期に転校させられてたんだな。
少しでも友達作りが遅かったら、友達のできないまま夏休みへ…そして、夏休み明けには今更声を掛けられない雰囲気に、て事だろ?なんて恐ろしいタイミングだったんだ。
「まさか、睦人夏休み知らない?」
「しっ、知ってる知ってる!忘れてただけ!…夏休みかー、俺なんにも予定立ててないな」
危うくケーイチにドン引きされるところだった。脳内の予定を思い出すまでもなく予定など何もない事を告げると、椅子に浅く腰掛けていた佳威が笑う。
「夏休み忘れるとかどんだけ学校好きなんだよ。予定なんもねえなら睦人も今年は俺ん家来るか?泊まってけよ」
「佳威の家?」
「そ、実家。地元でまあまあな規模の夏祭りがあるんだけど、花火が俺の実家の近くで上がんだ」
「へー!めっちゃいいじゃん!」
泊まり、夏祭り、花火。
ワクワクする単語の連発に次の授業の準備をしていた両手が止まる。
フレンドキャンプ然り、俺はイベント事にめっぽう弱い。楽しそうな話に早くも浮き足立つ。
「夏祭りの会場、花火の時間になると毎年混んで凄えからうちから花火だけ見るんだよ。ケーイチも毎年来てるし、睦人も暇なら来いよ」
「行きたい!俺も行っていっ…」
「睦人、大丈夫?俺は慣れてるけど佳威の家、覚えてるよね?」
食い気味に返事をしようとしたらケーイチから冷静な声。高ぶる熱に冷水を掛けられた。
佳威の家覚えてるって……あ。
「光田組…」
ゴクリ、と喉が鳴る。
神妙な面持ちになってしまった俺を見て授業の準備する気ゼロな佳威が吹き出して笑った。
「おっまえ、ほんとおもしれーな。俺そこの息子だぜ?なんで俺が大丈夫なのに家の話になった途端に畏まるんだ」
「いや普通そうなるだろ!佳威は佳威だって分かるけど…でも泊まりか…しかも花火…」
「楽しそうなことしかねえだろ?まあ、睦人の親が大丈夫ならの話になるけど」
「そうだね、光田組の家なんて普通聞いたら心配するだろうし…ちゃんと聞いといた方がいいと思うよ」
「あー…そうかな」
「心配するようなことなんてなんもねえけどな。でも一応聞いてみろよ」
ケーイチの言葉に意味を理解したが、放任主義な両親の反応なんて聞くまでもない。楽しそうな佳威にバシバシと肩を叩かれて、俺も笑顔で頷いた。
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