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02
「駄目よ?」
晩御飯の準備をしてくれていた母親が、味噌汁に味噌を溶き入れながら笑顔でこちらを振り向いた。数刻前に見ていた笑顔と同じ種類の笑顔なのに、飛び出してきた言葉と表情があってない。
「え?………なんで?」
呆然とする俺。「もちろんいいわよ!どこへでも行ってきなさい!飛び立ちなさい!なんならそのイケメンうちに連れて来なさい!」ぐらいの返事が来ると思っていたのに。
まさかのNO。
アホみたいに口が開いて閉じてくれない。
「だってお母さんその、佳威くん?に会ったことないんだもの。ケーイチくんも。あんたあんまり学校のこと喋ってくれないからどんな子達かも分かんないし…心配だから駄目です!」
「………えぇ…?」
ヒート真っ最中の俺を渥に託したり、αである有紀を家に泊めたりしてたのに?今更?今更そんなこと言っちゃう?
放任主義だとばかり思っていたのに、今度はまさかの過保護対応。
「ソレ、俺もはんたーい!お泊まりなんてリクにはまだ早いと思う!香織さん絶対に許しちゃ駄目だよお、リクの為にも!」
テーブルに座っていた有紀が頭をぶんぶん振って反対の意思を示して来るが、やっぱりこいつに家なんか教えるんじゃなかった。
あれから事あるごとに家に来てはグダグダと喋ってから帰って行く。しかも頻繁に来ているのが渥にバレたらしく怒られたとブーブー言っていた。
だからか晩御飯は大抵断って短時間で帰って行くもんだから、逆に母親が「有くん気を使ってるんじゃないかしら?あんたがしっかり言ってあげないからでしょ!」と怒られる羽目になったんだぞ。理不尽だ。
「母さん!佳威もケーイチも本当にいい奴なんだよ!転入したその日に声掛けてくれて仲良くしてくれて…それにケーイチはβだから安心してよ」
「そうねえ、でもねえ…」
「はい!リク!俺が花火連れてってあげる!綿あめと焼きそばとりんご飴も買ってあげるから行かないでえ!ラムネもつけちゃう」
「友達は大切にしなさいって言ってたの母さんだろ?」
「いーやーだー!無理無理!無視しないでバカっ」
「いや、有紀うるさっ」
無視を決め込んで母親に訴えかけているのに台無しなくらい有紀がうるさい。さすがに無視できなくなってつっ込むと、えんえんと泣き真似をしながら母親の方を向く。
「香織さぁん…俺リクのことが心配で言ってるのにうるさいって言う…」
「きゃー!有くんそんな可愛い顔しないで!おばさんキュン死にしちゃう!」
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