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03
鍋の火を止めて母親が嬉しそうに有紀の元に駆け寄る。どんな顔をしてるのか知らないが、二対一は非常にまずい。
「もー母さん、なにが心配なんだよ。渥と有紀だったら問題ないわけ?」
「そう言われるとそうなるわね!二人なら安心してりっちゃんを預けられるんだけど」
適当に言った言葉に対して即座に頷かれて驚いた。息子の貞操に興味が無いのかと思っていたが、そうではなく重きを置いているのは信用できるかできないか…?
「いいのよ?同意の上でのラブロマンスは。いくら起ころうと、自己責任でね?でももしあまりの可愛さにりっちゃんが監禁でもされたら…お母さん生きていけない!」
「…そういうの他所でやるのマジで絶対にやめろよ…」
「でも監禁が心配なのは本当よ?オメガが監禁されてたニュース、りっちゃんにも教えてあげたでしょ?しかも高校生で…あれ見てお母さんちょっと怖くなっちゃった」
母親の言う通り、休みなのに朝から叩き起こされて何事かと焦った俺が強制的に見せられたニュースには、高校生の女性Ωが会社役員の男性αに数日に渡り監禁されていた事実が報じられていた。
痴情の縺れだと言われていたが連日どこをつけてもそのニュースで持ちきりで、正直背筋が冷えた。
Ωに執着するαは少なからずいる。折角のエリート街道を走っていたというのに、数少ない希少なΩを手に入れる為に手段を選ばず転落の道を進むのだ。理解したくない。
しかし今この場で監禁がどーのこーのと心配するなら、そこで嘘泣きをする男を注意して欲しい。
この前の発言、よくよく考えるとかなり過激な思想だ。本当に実行されていたら人間性を疑うだけでは止まらない案件だったが、考えを改めてくれて良かった。そこに至るまでに何があったのかは知らないけど。
「とにかく!佳威の家は代々αがΩと番う家系らしいから多分Ωに対して酷いことしようとか考えてる人達は居ないと思う。そもそも佳威とケーイチがいるから大丈夫なんだってば」
「…んー、そう?ほんとに?ねえ、有くんどう思う?」
「Ωだってバレて嫁だなんだと持て囃されて帰れなくなるに一票」
突然真顔でスラスラと怖いことを言う有紀の頭を軽く叩く。
「いたい!」
「バレないし、バレたところでそんなことにはならないから。川北さんとかなら話は別だろうけど…」
「メグちゃん?なんでいきなりメグちゃん?」
「佳威のこと好きなんだってさ」
…あ、もしかして言わない方が良かったか?でも口止めされてないし、わざわざ俺に言ってくるくらいだからむしろバラして欲しいんだと思ってたんだけど。
さすがに佳威には伝えてないが、俺からやんわり伝わることを期待してたりするのかも知れない。
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