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「あいつら普通にしてても目付き悪ぃから、まあ…気にすんなよ」 「佳威が俺以外の友達連れて来るの初めてだから、みんな興味津々なんじゃないかな」 「あー、そりゃあるな。…睦人!あいつらこっちには滅多に来ないから安心しろ。つか、お前なんかあるとすぐ正座すんな。痺れねえの?」 佳威が俺の二の腕を軽く叩く。畳の上で正座をしていた俺は、先程から一事も喋っていなかった喉を動かした。 「…う、…ごめん。ビックリして…」 「あはは、仕方ないよ。佳威の家は規模が違うし、びっくりするのは当たり前だと思う。驚かない方がおかしいよね?」 「そうそう。最初から全く動じなかったケーイチと違って新鮮な反応が逆に面白えし」 「すみませんね、面白みがなくて」 癇に障ったのかケーイチが薄目で隣を睨む。思った通りの反応だったようで佳威が声に出して笑って、二人のいつも通りの様子に体の力が抜けていくのに気付いた。 勝手なイメージを抱いていたように佳威の実家は格式高そうな平家で、さらに敷地が一般家庭の俺からすれば規格外に広い。 佳威が「こっち」と形容したように、どうやら佳威の部屋はいわゆる離れに位置しており、ここに来るまで少しの距離を歩いた。 そして、広々とした和室の一角で俺はなんとか足を崩して胡座をかく。膝が持ってきた紙袋に当たり「あ」とその存在を思い出した。 「佳威、親父さんとか、今家にいたりする?」 「親父?さあ、どうだろうな。でも親父には会わねえ方がいいと思うけど。なに?」 「そっか。じゃあこれ、お口に合うといいですが…」 母親に半ば無理矢理手を引かれ連れて行かれたデパートで買った菓子折りに定型文を添えて渡す。なんのひねりもないが、美味しそうだったのでバームクーヘンにしてみた。…まあ間違いはないだろう。 「お前…すげえちゃんとしてんだな。でも、んな気ぃ遣わなくても良かったのに。悪ぃな」 「とんでもない!お世話になります」 むしろお世話になるのに何も用意しない、なんて鋼の心を俺は持ち合わせていない。佳威は大袈裟なくらい驚いた後、申し訳なさそうに受け取ってくれた。 「睦人の硬直も溶けたし、そろそろ行くか。見てわかると思うけど俺の部屋なんもねえんだよ」 「行くってどこに?」 腰を上げる佳威を見上げて首を傾げた。同じように既に立ち上がっていたケーイチが手を差し伸べてくれて断るのもどうかと思い両手を掴んで起き上がる。数分前まで正座していた所為か一瞬足が子鹿のように震えたが、ケーイチの両手のお陰で転ばずに済んだ。 「縁日に決まってんだろ!花火はこっちに帰ってきてからだけど、祭で縁日行かねえとかつまんねえしな」 「そういうこと。今ならそこまで人多くないだろうし、毎年そうしてるんだ」 「なるほど!うわー、縁日とか久しぶりだなあ」 「去年の焼きそばはクッソ固くて外れだったからな。今年はぜってー美味いとこで食ってやる」 「屋台にどんなレベル求めてるんだよ」 「うっせえな。食べるなら美味い方がい…」 ケーイチに冷たく突っ込まれて舌打ちを返した佳威が、部屋の扉を開けようとした瞬間。 何故かガラリ、と外側から開く襖。 「お待ちなさい、あなたたち」 現れたのはどこかで見たことがあるような風貌に、美しい黒髪をきっちりと結い上げた和服美女だった。

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