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麗奈さんの言葉に意味が理解できず口をパクパク開閉させると、ふふっと口元を手で隠す。この仕草、最近身近な人物でよく見たぞ。
「佳威にね?今日連れてくる奴はΩだから、組のαは近寄らせんなって釘刺されたの。だから知ってるのよ、あなたが私と同じΩだって」
「あっ、そう…そうなんですか…!」
「ごめんなさいねぇ。でも安心してね、私しか知らないから。佳威も悪気はないのよ。よっぽど大切にしてるお友達なんだと思って…睦人ちゃんいい子そうだし納得だわあ」
――大切にしてるお友達…
むず痒い。本人からではなく第三者から聞いた内容だからか余計にむず痒い。
俺だって佳威のことは大切に想ってる。そんな友達が俺のことを考えて事前に言ってくれてたなんて嫌なわけないし、嬉しいに決まってる。
「αに求められればΩに選択肢なんてないと世間は言うけれど…あの子はそんな考え持っていないのよ。うちの教えを叩き込んでいるから、睦人ちゃんは何も気にせず一緒に居てあげてねぇ?」
私が言うと親バカみたいに聞こえるけれどαとしては優良物件よ、とウインクをされた。
もちろんそんなつもりで仲良くなったわけじゃないけど、無性に恥ずかしくなってしまい「ありがとうございます!」と謎のお礼を伝えて頭を下げる。
「睦人」
名を呼ばれて顔を上げると先に行ったはずのケーイチが部屋の前に立っていた。俺がついて行かなかったから待っててくれたのか。
「あ、ごめん!今、行く」
「嫌だわ。引き留めてごめんなさい。楽しんで来てねぇ」
「はい!行ってきます」
ケーイチと部屋を出ると廊下の向こうの方に仁王立ちでこちらを伺っている黒い姿が見えた。
「佳威、あんなところに」
「一応待っててくれたみたいだよ。…なんの話してたの?」
「ん、世間話?麗奈さんもΩだからさ」
「美人でしょ。背も高いし昔はモデルとかやってたらしいよ」
「そうなんだ!?…でも確かにやってそう、似合う」
今のところ女性Ωにしか会ったことないが、揃いも揃って皆、美人ばかりだ。
念の為に言っておくとΩは容姿に優れてるなんて統計は出ていない。そんなもの発表されたら一般的な容姿の俺は居た堪れないし、Ωじゃない疑惑が出てくる。それはそれでありがたいけどまずあり得ない。
だからきっと男性Ωは普通の人が多いに違いないんだ。というか、そうであって欲しい。
どうでもいいことを願いながら俺たちは風情ある浴衣姿で、夏休み最初のイベントである縁日へと繰り出した。
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