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「どう?佳威。今年のは美味いのか?」 「あー…まあ普通だな。去年のよりはだいぶマシ」 「佳威の屋台に対しての理想が高過ぎるんだよ」 「なんでだよ、たまーにアタリあんじゃねえか!それを求めてんだよ俺は」 「博打好き…」 「違えし」 「ちなみに!俺のは美味いよ!…まあカキ氷だから外れもなにもないけど」 祭りに来てまで言い合いを始める仲の良い二人に、イチゴ味のカキ氷を掬って食べる?と見せたが二人とも首を横に振る。 「ごめんね、俺いちごシロップの人工甘味料な感じが苦手で…」 「俺あんま甘いの好きじゃねえ」 「あ、そうですか…」 まさか両方から断られるとは思わず微妙にショックを受けながら、掬ったカキ氷を自分の口に入れた。 佳威たちの言う通りこの時間帯の縁日はごった返す程多くなく比較的スムーズにお目当てのものを買うことができた。俺はカキ氷、ケーイチはフランクフルト、佳威はそれぞれ違う屋台で買った焼きそば二個を手に入れて木の側にあったベンチへと腰を下ろす。 時刻は夕方になり辺りは橙色に染まっていた。祭りの参加者には浴衣着用の人達が多く、カランコロンと下駄が地面を蹴る音が重なる。食品の焼ける香ばしい匂いに混じって、煙の焦げ臭い匂いが広がっていた。 夏祭り独特の雰囲気に高揚感が増して、俺は今最高に楽しい気分だ。 「花火って何時から上がるんだっけ?」 「8時だよ。30分前には帰りたいところだから…あと1時間くらいはのんびりできるね」 「食い終わったらすることなくね?」 「えっ、もっとあるだろ!金魚掬いとかヨーヨー掬いとか」 縁日に来て食べるだけで終わるなどという殺生な事を言い出す佳威に、身を乗り出すように提案していけば、ふはっと吐き出して笑われた。 「お前掬うの大好きかよ。じゃあ、睦人のしたいことに付き合うか」 「マジで!いいの?」 「俺は全然。別にしたいことねえし。いいよな、ケーイチ」 「もちろんだよ。何しよっか」 「友達とやると言ったら…なんだろう、射的とか?」 「射的か!いいじゃん」 「射的なんだ。何かしら掬いたいのかと思った」 パッと思い付いた事を口にしてみれば、数年ぶりだと佳威が俄然乗り気な反応を返してくれる。俺のチョイスが予想外だったのか、ケーイチは笑いながら言葉を続けた。 「アレでしょ?ゲームソフトとかいいやつは固定されちゃってるやつでしょ」 「うわ…お前台無しな事言うなよ。いいんだよ、こんなの雰囲気なんだから。行くぞ睦人!」 佳威に腕を掴まれてお尻が持ち上がる。なんだか久し振りに触れられた気がして佳威を見上げると、すぐに腕から手が離れてしまった。 「悪い」 「え…あ、ううん」 流れで返事をしたものの正直ピンと来ていない。 悪い? 一体、何が悪いんだろう。

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