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現実主義のケーイチとその場を楽しく過ごせれば小さな事は気にしない主義の佳威となんだかんだと楽しく屋台を回っている時、巾着に入れていた携帯が鳴った。
この二人と一緒にいるときに俺に連絡があるなんて、母親か有紀くらいしか思い付かずどうせどちらかだろうと画面を確認すれば表示されたのは知らない番号。
「ごめん、電話だ。ちょっと離れるな」
「あんま遠く行くなよ」
佳威が保護者みたいな台詞と共に、射的銃を手にしたまま振り返る。なんともまあ物騒な見た目だが、隣のケーイチもケーイチで狩りを嗜む実業家みたいで嫌に似合ってる。そんな二人に断りを入れて俺は人混みから離れ、鳴り止まない電話を耳に当てた。
「…もしもし?」
『お前いまどこにいるんだ』
聞こえてきた声に心臓が飛び上がった。
「渥…?」
『ああ』
「え…なん、…なんで俺の携帯…」
『香織さんが教えてくれた。お前、光田の実家に居るってマジなの?』
脳裏に掠めさえもしなかった相手――渥からの電話に思わず携帯を落としそうになる。連絡先交換なんていう仲良し行為をしていなかったから、まさか渥から着信があるなんて。…母さんは俺の個人情報を守る気ゼロだな。
「マジ…だけど」
『お前……ほんと自覚無いね』
「自覚って…いきなりなんなんだよ」
『あまり光田の空間に深入りするな。反感買うぞ』
あたかも当たり前のように告げられた言葉に納得も理解も出来ず、ムッとしてしまう。反感買うって渥の取り巻き達じゃあるまいし、誰から買うって言うんだよ。
「いきなり電話してきたかと思ったら…。そんな訳わかんないこと言うなら切るからな」
『いいよ。忠告はしたから。あとで泣きついてきても俺は知らないよ』
「……渥は、今なにしてるんだよ」
『切るんじゃなかったの』
「…切る、けど」
気になってしまった。
夏休みに入ったばかりで久しぶりに聞く渥の声に、お前は夏休み何をしてるのかと、純粋に気になったのだ。
言葉に詰まる俺に、電話の向こうで渥が小さく笑う声が聞こえた。
『さっきまでお前ん家で香織さんとお茶してた。今日は有紀があの人に捕まってるから俺は自由にしてる』
「…お前また俺が居ない間に俺ん家に……て、そっか。有紀嫌がってそうだな」
『あいつね。何やらせても要領良いのにやる気ないんだよ。昔からそういうとこあっただろ』
「あったあった。そういやあん時も…」
そう言い掛けて――やめた。
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