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昔の話をすると勘違いしそうになる。何をしているのか答えてくれた事が嬉しかったなんて単純すぎるな、俺は。
『なに?』
「…なんでもない。俺、そろそろみんなのとこ戻らないと」
『あっそう。とりあえず俺の言ったこと忘れるなよ』
電話が切れる。何も聞こえなくなった携帯を耳から離し、画面に目を落とした。
橙色が画面に反射して表示された番号がチラチラと光り、携帯を手にしたままどうするかと頭を悩ませた。
番号…登録してもいいのかな。
「………やめよ」
暫く悩んでみたけれど、下手に期待してしまいそうで悩みの種を増やすだけだと何もせず携帯を仕舞う。
いつでも連絡できるようになったって、連絡していい間柄にはきっとまだ戻れていない。
それなのにこうして突然電話してみたり、家に現れてみたりと渥には振り回されっぱなしだ。
携帯を仕舞いながら、踵を返す。
後ろを向いた瞬間、顔に影が落ちた。
「!…っあ、すみませ…」
「あ」
渥のことに気を取られていた所為か、背後に立つ人の気配に気付けなかった。
ドンと自分より背の高い男にぶつかってベチャ、という音と何かが胸の辺りで潰れたような感触。
反射的に謝罪の言葉を口にして顔を上げるとぶつかった相手も同じようにこちらを見下ろしていた。視線が合わさった瞬間、驚きと同時にホッとする。
「なんだ、佳威か…!ビックリした」
「………」
「ごめん、大丈夫?俺周り見てなくて…」
後ろに居たのは佳威だった。
浴衣だった事もあり一瞬別人かと思ったが、そういえば今日は自分含め皆浴衣だ。謝る俺を何も言わず見つめる佳威に、首を傾げる。
「……佳威?」
「…服」
ボソリ、と呟かれた台詞に自分の体を見下ろせばまあ見事に乳白色の柔らかな物体…多分ソフトクリームが胸の辺りにベッタリと付いていた。見てしまうと思い出したように冷たさが胸元に広がっていく。
「うわ」
やば…!これ借り物なのに。
佳威の手元を見れば半分以下になったソフトクリームとコーン。そして俺に付いたアイスの部分からほとんど食べていなかったことが窺い知れる。
「アイスも、ごめん…!どうしよ…あ!後で新しいの買うから!」
「……いや、それより自分のこと気にした方がいいんじゃねえのか?」
「あ〜そうだ…やばいよな、これ。麗奈さんにも謝らないと」
「お袋なら俺がぶつけたって言うから…それより早くアイス落とした方がいいだろ。向こうに手ぇ洗う場所があるから、あっち行こう」
「うん…あれ?でもケーイチは?」
手首を取られて辺りを見回すがケーイチの姿がない。一緒に来なかったのかと佳威を見ると、こちらを振り返らずに「飲み物買いに行ってる。あとで電話するわ」と素っ気ない返事が返ってくる。
「飲み物?そう、なんだ…」
人混みに溢れてるから後でちゃんと会えるか心配だが、土地勘もあるだろうしケーイチなら大丈夫か。
さっさと歩き出す佳威に遅れないよう、俺も急いで後に付いて歩き出した。
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