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連れて行かれたのは人混みから離れた静かな場所だった。
ガヤガヤとした賑わいが遠のき、祭りならではの太鼓や笛の音に混じって、時折子供の興奮した高い声が離れた場所から聞こえてくる。
そう遠くには来ていない筈なのに、世界の喧騒から切り離されたみたいな不思議な感覚で、騒がしい場所から離れるといつもこうなるな、と呑気に考えていた。
休憩スペースとして活用されているのか何点か木製のベンチが設置されており、座っているのは俺ただ一人。
佳威はというとすぐ近くに設置された水飲み場兼手洗い場で手元を水で濡らしている。
夕暮れ刻ということもあり辺りはそう明るくはなく、佳威の黒の浴衣はもう少し時間が経てば暗闇に紛れそうだと後ろ姿を見て思う。
自分の甘い匂いのする部分を見降ろして小さく溜息をついた。
「ほんとごめんな…折角の縁日だったのに」
「別に」
前方不注意ならぬ後方不注意だ。水で濡らしたタオルを手に持って佳威が戻ってくるのを見上げる。
失礼極まりないが、タオルなんて持ち歩いてなさそうだったので「タオル持ってるのか…!?」と大袈裟に驚けば「おかしいか?」と真顔で返されてしまった。
「タオルありがとう…自分で拭くから」
近くに寄ってきた佳威から濡れたタオルを受け取ろうと手を伸ばす。
しかし俺の目の前で腰を下ろした佳威はタオルを渡すどころか、何故か自らアイスの付いた部分を拭き取り始めたのだ。
「いいっ、いいよ佳威!自分でやる!」
「いいから」
手際よく浴衣に付いたドロドロのソフトクリームだった物体を拭き取ってくれるが、その様子はまるで小さな子供を相手にする親だ。俺は子供か。
先程からニコリとも笑わないから食べ物の恨みは恐ろしいと身をもって感じていたところだったのに、ここまでしてもらうと逆に恐縮してしまう。
「下まで垂れてんな」
ボソリと聞こえた小さな呟き。浴衣に付いただけでなく暑さで溶けてしまい液体になったソフトクリームが、合わせた襟の隙間から体に伝う。
浴衣の下こそ自分で拭く、と声を掛けようとした矢先。それよりも先に浴衣の襟を掴んでいた指がスルリと中へと入り込んできた。
砂糖を含んだ液体は貼りつくように不快で、冷たいタオルが滑っていくのはサッパリして気持ちがいい。
ただ肌に触れる布の感触と、開かれる襟の具合に気恥ずかしさが浮かぶ。
「佳威…あの、ほんとに自分でやるから」
「なんで?」
「なんでって…ここ一応外だし、ちょっと恥ずかしいというか……、っ!」
やってはくれるものの本当に全然笑わない。まるで麗奈さんが言っていた無愛想な佳威みたいだ、と腹に落ちる手前の手を掴む。
突然、タオルを持っていないもう片方の手が、襟の隙間から内側に滑り込んできた。
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