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「あ、あなた…誰、ですか」 「誰?君こそ佳威のなんだ?家でハジメと君がいるのを見た。わざわざ家にまで連れてきて人払いまでさせて…僕はてっきり、ついにお気に入りのΩでも連れてきたのかと思ったのに」 「……佳威の…家の人…?」 佳威を知っているのはもちろん、ハジメと言うのはケーイチのことだ。俺達を見たとか、家に連れてくるだとか、そんなことを口にできるのは光田家に関係する人間しか居ない筈。 「質問をしているのは僕だ」 癇に障ったのか突然男が立ち上がる。帯を持たれたまま肩を押され態勢を崩してしまい、俺は再びベンチへと座り込む。 「()……っ待ってください…!なんでこんなこと…離せよ!」 「浴衣で気付くなんて、それでもお気に入りか?…どう見ても佳威の趣味じゃないと思うけど」 「趣味って…俺はただの友達で」 男が片足をベンチに乗り上げ、片方だけはだけた俺の肩を掴む。ピリッとした違和感に広がる熱。 「ッ……、あなた…」 光田家に関係すると分かって言葉が躊躇する。暴言を吐いてはいけない。 しかし、すぐにそんな呑気なことを言ってる場合ではないと気付いた。だって目の前の佳威擬き。この人は… 「α(アルファ)…!」 「それさえも気付くのが遅いな、君は」 気付くのが遅いと言われても、佳威だと思ってたんだ。佳威がαなのは認識済みだったから、警戒なんてしなかった。 だけどそれが別人で、さらにαなのだとしたら話は別になる。 慌てて腰を上げるが、前に立ちはだかる男に首を掴まれた。隙のない動きに、全く反応できなかった。 「!」 「動くな」 なんだその視線。威圧感。見た目は佳威なのに。ぶっきらぼうだけど優しい俺の友達そのものなのに。 佳威にはない殺伐とした雰囲気に息を飲んだ。 殺されるのか、なんて非現実な考えが脳裏を過る。 「…そう、物分かりが良いのは嫌いじゃない」 体の力が抜けていくようにストン、とお尻がベンチに落ちる。首を掴んでいた手が後ろに周り、何かを確認するように撫でた後、ようやく手が離れた。 「契約は済んでいないみたいだな」 「…お、れは…」 「まさか!Ωじゃないなんて言うつもりじゃないだろうな?性的興奮から微量なフェロモンで匂いが変わる、そんなのこの世にΩしか居ない。…僕は佳威とは違ってΩの匂いは好きなんだ。すぐ分かる」 「……っ」 だから俺に対してあんなことしてきたのか。佳威にしては様子がおかしいと思った。 …駄目だな。ヒートが始まったのをキッカケに、以前より匂いが濃くなってるのかも知れない。 「何が目的だ。金か?家柄か?…それとも優秀な遺伝子か?」 「は…?」 「何が目的で佳威に近付いた?正直に言えば何もしない。逃がしてやる」 「目的なんて…何もないです…!俺はただ純粋に…佳威と仲良くしたいだけで…」 男の顔がスッと近付く。 暗いからよく分からなかったが、よく見れば右の目の下に黒子が見えた。色気を感じる泣き黒子。佳威にはないのに、本当に俺は気付くのが遅い。

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