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佳威の前だと小さな子供だが、普段は今日出会った怖い人達の上に立つ人間だ。若頭といえば実質のNO.2。
極道の世界には縁もゆかりも無いし、佳威も光田組の話なんて全くして来ないから明確に色々知ってる訳じゃない。ただ平穏な世界とは縁遠い事だけは理解している。
「だから!あいつにガン飛ばすな!ただでさえ、てめえの顔は怖えんだから」
「それはブーメランじゃないか?佳威」
「完全にブーメランだね」
「うぜぇ。そういう意味で言ってんじゃねえの分かってんだろ、ケーイチ」
「ごめんごめん、つい」
ケーイチが笑うのを横目に佳威がこちらに向かって来ると、ソフトクリームで汚れた浴衣を掴まれた。
「しかもなんだソフトクリームぶつけるって。こいつドロドロじゃねえか」
「甘いものが得意じゃない佳威がソフトクリームを持ってるなんて真の愛があればそこで違和感に気付くと思ったんだ。全然ダメだったけど」
うっ。
痛いところを突いてくるな。
確かに思い起こせば、俺がカキ氷を差し出した時も甘いものはあまり好きじゃないと言ってたっけ。
瑠威さん何気にチャンスを与えてくれていたようだが、その優しさはもっと別の形で見せて欲しかった。
「そもそも俺たちは愛だなんだのっていう関係じゃねえから。…睦人、ちょっと早いけど先風呂入れ。気持ち悪ぃだろ、そのままじゃ」
「あー、助かる…でもその前に麗奈さんに浴衣のこと一言謝りたい」
「んなことしなくていい。全部あいつが悪ぃんだし、こっちで事情説明しとくから。…な?兄貴」
「…今?」
「あ?」
「……行ってくる」
佳威の有無を言わせない雰囲気に、何かを察したのか瑠威さんがトボトボと反対方向へと歩いて行く。
数歩歩いた先でぐるり、とこちらを向いた。
「そうだ!花火は一緒に見よう!いいだろう?佳威」
「無理」
「佳威…!!」
「あの、佳威…!俺も瑠威さんと花火見たい…!………気がする」
「はあ…?」
黒の刺繍入りの浴衣を着る瑠威さんは佳威同様にとても様になっていて格好いいのに、一刀両断されて凹む姿は耳を垂らす犬のよう。俺が可哀相と思うことすら彼にとっては腹立たしいのかもしれないが、あまりにも可哀相に思えて助け舟を出してみる。
しかし瑠威さんはお門違いだ、とでも言わんばかりに表情を歪めた。
「僕は佳威と見たいんだけど」
「あ、違います違います!俺が瑠威さんと2人でって意味じゃなくて、みんなでって意味で…」
「お前、あいつに何されたのか忘れたのかよ」
「忘れてないけど…毎年みんなで見てたんなら俺が来たから一緒に見ないってのもなんか違うというか…正直申し訳ないというか」
「む。なるほど、いいことを言うな」
「それにケーイチだってここの人達に会うの楽しみにしてたんだろ?」
「俺?……うん、まあ。ていうかよく覚えてたね」
突然話を振られて驚くケーイチが、即座に意味を理解して感心したように笑った。
「というわけなんだけど…駄目?佳威」
「……睦人がいいならいいよ。もうΩバレしちまったみたいだし」
佳威が俺から目を逸らす。
佳威の反応に瑠威さんは「よし!じゃあすぐに説明して戻ってくる。君なかなかいい仕事するな、ゆっくり湯に浸かっていきなさい。なんなら花火終わるまで浸かってなさい」と意気揚々と去って行った。
…あの人本当にNO.2なんだろうか。
ヤクザって暇なのかな。
俺は瑠威さんの背中を見送りながら、知られたらタダじゃ済まないような事を考えていた。
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