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「…ほんとにそこで待ってるのか?」
「ここ兄貴の部屋が近えんだよ。あいつほんと油断ならねえ。次やったらぜってえ殺す」
「お、穏便に」
「いいからお前は早く入れ。俺はいいけど早くしねえと始まっちまうぞ。花火、楽しみにしてたんだろ?」
「あ!そうだった…!」
花火という単語に、迷っていた心が途端にワクワクし出す。じゃあ、お先に!と、浴室前の脱衣所から扉の外に居る佳威に断りを入れて、バニラの甘い香りがする浴衣に手を掛けた。
先に部屋に戻ると言っていたので、ケーイチは今この場には居ない。佳威は瑠威さんが信用ならないのか脱衣所の外の床に胡座をかいて、俺が出てくるまで待つらしい。
檜の香りがする浴室に足を踏み入れ、大体はあの時にお兄さんが拭いてくれた――舐めてくれたが正しいか?――で綺麗になってはいたので、シャワーで全身を流して体を洗う。
ついでに髪も洗ってさっぱりした状態で脱衣所に出て、持ってきていたTシャツとスウェットのズボンを履いた。
貸してくれると言われていたのだが絶対サイズが合わないだろうし、ケーイチも「彼T状態になりたくない」と自分の服を着ると言っていたので俺も同じようにした。
佳威曰くほっそい俺では、彼T云々の前にズボンの丈が悲しい結果になることは目に見えている。
「佳威、出たよ!」
「おー、慌てんな」
「花火の時間大丈夫?」
「あと10分」
「10分!?ヤバ…!」
遅れると瑠威さんの怒りを買いそうだ。
髪が半乾きだがもういいや、と荷物をまとめて脱衣所の扉を開ける。
「お待たせ。すげえ気持ちよかった、ありがとう」
勢い良く飛び出してきた俺に、一瞬驚いた顔をして立ち上がる佳威。離れへと戻る気満々で廊下に出たが、頭を掴まれて強引に元の場所へと押し戻された。
「おわっ……え?なに?」
「お前なあ…髪全然乾いてねえじゃん」
「いいよこれくらい。花火見てたら乾くだろ」
床を濡らす程濡れている訳じゃなし。もちろんそこまでビショビショならさすがに出てこない。
「アホか。風邪引いたらどうすんだ」
少しだけ乱暴にタオルで頭をわしわしと拭かれて、当たる髪の毛に目を瞑る。
「でも」
「お前の髪乾かすのに10分もいらねえし。黙って拭かれてろ」
「…う…はい」
有無を言わさぬ力で頭を固定されてしまい、仕方なく力を抜いた。
人に頭を乾かして貰うなんて何年ぶり、いや何十年ぶりだろうか。今日は佳威に世話を焼かれまくってる気がする…と思ったがよくよく考えるとアイスを拭いてくれたのはお兄さんだった。
「そういえば…瑠威さんって、何歳?」
「兄貴?何歳だっけ…確か、あー。今年で22…3か」
「へえ!結構離れてんだな。めっちゃ似てるから同い年くらいかと思った」
「よく言われる。マジいい歳して何やってんだよって話で……て、いいんだよ兄貴の話はどうでも。…それとも、あいつの事が気になるのか?」
佳威の問い掛けに顔を上げる。白いタオルが視界の端で揺れた。
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