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抱き締められながら、佳威が頬を寄せる。驚きと安堵の両方が同時に押し寄せてきて一瞬頭が真っ白になった。
「惚れてねえよな?」
「う…うん…ぜんぜん」
「はは、全然か」
「….佳威?」
「あーあ、普通に触っちまった」
すぐに離れるのかと思ったが、佳威は背中に腕を回したまま動かない。すぐ傍から聞こえてきたのは自嘲気味な、溜息。
「友達って、難しいな」
「と…、…え?」
「友達はこんなベタベタ触んねえだろ。…触んねえよな?」
「…多分」
「友達の境界線ムズイんだよ」
どうなんだろう。少なくともケーイチは俺に頻繁には触ってこないが…よく分からない。
再びドンと腹に響く炸裂音。続いてパラパラと乾いた音が鳴る。
――花火、始まったんだ。
「これでも触んねえように我慢してたんだぞ。なのに、お前があんな顔するから」
「…俺、そんな酷い顔した?」
「泣くのかと思った」
直接酷い顔だとは言われなかったが、暗に肯定されたのだと気付き、佳威の胸を押し返す。
「だってっ、後悔したなんて言われたら誰だって心配になるし…!ていうか、花火!始まっ…」
言葉の途中で押し返す手を取られた。折角できたスペースが一瞬でゼロになり、再び体が密着する。
「お前が俺に望むのは友達だろ?」
「…え?」
「……この前、川北に告られた」
耳元近くで呟くような低い声。腰に手が回る。服の中に手が入ってくるわけでもないのにそわそわした。
「川北、さんってΩの…?」
「ああ、キャンプで連れてきた奴。俺と付き合って、次のヒートで番になりたいんだと」
「…そう…なんだ」
――そうだったのか。
俺にあんな牽制してきて、佳威に対して何も行動を起こしてない方がおかしいか。すごいな。素直に尊敬する。
自分の一生を左右する番決めをそんなに積極的に行えるなんて。…その為にあの学校に入ったんだ、当たり前か。
「返事は?したのか?」
俺を安心させる為に抱き締めてくれたことは分かったが、変な気分になってくるからそろそろ離して欲しいような…
だがどうあがいても抜けられそうになくこの体勢のまま尋ねると、佳威が首を振った。
「断った」
「っ、断った!?なんで…?」
Ωのフェロモンは苦手な香りばかりだと言っていた佳威が、嫌いじゃないと言ったのが川北さんだ。顔も可愛いし、男が好きなスタイルを持ち合わせてる。清楚な雰囲気は庇護欲を掻き立てる。
返事は?と聞いておきながら多分付き合うことになったのだろう、と予想していたのに。
「なんで?……さあ、なんでだろうな」
佳威が漸く体を離す。お互いの顔が見られるようになって、佳威の顔を見れば困ったように笑った。
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