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等間隔に聞こえていた花火の音が止んだ。上がっているのか、ただ単に次の花火への準備の時間なのかよく分からない。 お互いを包み込む空間だけが静かだ。佳威がじっと俺を見つめて、俺も佳威から目が離せない。 αらしくないと思ったは数分前か。 これのどこかαらしくないんだ。 放つオーラは無意識だろうか。誰もがαだと分かる瞳の強さに、僅かに香るのはαの香り。それこそ俺の方が意識せずにはいられない。 近い距離に、キスを、されるのかと思った。 キスなんてされたら、我慢の効かないΩがきっと騒ぎ出す。抑制剤を飲んでいない今、それは駄目だとわかっているのに顔が反らせないのだ。まるでαの魔法みたいに。 わざとだとすればとんでもない奴だ。それでも僅かな抵抗を試みて、ギュッと目を瞑った。 「それ、逆効果だから」 額に一瞬だけ柔らかい部分が押し当てられる感触がした。丸みを帯びた声に笑っているのだと気付く。 閉じていた瞼を開けて俺を見つめる佳威の顔を見て、「あ…」と一つの考えが浮かんだ。 何故、佳威が川北さんの誘いを断ったのか。 思い違いだと限りなく恥ずかしいし、調子に乗るなと瑠威さんに罵倒される考えかも知れない。 しかし、俺は一度言われた筈だ。 ――『睦人の番、俺じゃ駄目か?』と。 その意味を俺はまだ聞いていない。 「佳威…そういえば…」 「なーにやってんの?こんなところで」 「!」 まるでタイミングを見計らったかのように突然俺達以外の声が飛び込んだ。反射的に声のした方を向くとケーイチが呆れた顔で立っていた。 「んだよ、ケーイチか」 「ケーイチか、じゃないよ。花火始まったのに全然佳威が戻ってこないから、瑠威さんが暴れそうなんだけど。佳威だけでも早く戻らないと、ここに乗り込んで来るよ」 「げ……ったく、面倒くせえな。…ほら、睦人。ちゃんと髪乾かしてから来いよ。ここの花火大会、終わんのまだまだ先だから」 佳威の体が離れ、そのまま床を乱暴に踏み締めて脱衣所を出て行くので、俺も心を落ち着ける為に慌ててドライヤーを手に取った。 「………」 あああ、恥ずかしい…。 逆効果って、そりゃそうだ。あそこで目を瞑るやつがあるか。流されやすいのは俺の悪い癖だ。分かってるのに抵抗できなかった。 洗面台の鏡に映る自分の顔が赤い。 俺は一体何を考えていたんだ。 乾かしながら出入り口に目を向けたが、ケーイチも一緒に戻ったのか姿は無かった。 「…よし。乾いたよな」 ほとんど乾いていたのでドライヤーで乾かす時間はほんの一瞬だ。 今度こそ完璧に乾かし終えて脱衣所の外へ出ると、空に真っ赤な大輪が咲くところだった。 「わ」 黒が広がる空へと打ち上げられていく色とりどりの火の花は鮮やかで、まるですぐ近くで打ち上げられているかのように大きく見える。 なんだかそのままこちらへ落ちてきそうだ。キラキラと輝きながら花火が俺に迫ってくる。 「…すげえ」 大迫力の花火に目を奪われて、思わず立ち止まってしまった。 「綺麗でしょ?」 独り言のつもりで呟いた台詞にすぐ横から返事が返ってくる。 まさか人が居るとは思わず驚いて声の主を探すと、壁際に立って俺と同じように空を見上げるケーイチの横顔があった。

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