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「ケーイチ!……うん、めちゃくちゃ綺麗だ。こんな近くで花火見たの初めてかも」 「毎年ね、佳威と見てたんだ。たまに瑠威さんが乱入して3人でね。今年は去年より打ち上げ数、多いらしいよ」 「すごいな…ほんと綺麗…」 「…ところで、さっき何してたの?」 「さっき?…あ、さっきはその、ちょっと色々ありまして…」 「佳威と何かあったんだ?俺の知らないようなこと?」 それまでずっと花火を見上げていたケーイチが、こちらを向く。 空に浮かぶ色鮮やかな花火とは対照的に、俺を見つめるケーイチの表情には、何故だか色を感じなかった。 「……ケーイチ?」 「あ。もしかして佳威に番になろうとでも言われたとか」 「え!?…えーと…」 「言われたんだ。最近の佳威、全然睦人に触らないから何かあったんだろうなとは思ってたけど」 ケーイチからは何も言って来ないから気付いていないのだと思っていた。俺でさえ佳威が触って来ないなんて、今日久々に腕を握られた時に気付いたくらいなのに。それぐらい佳威はいつも通りだったのに。 ケーイチはそんな些細な異変に気付いてたんだ。 「どうするの?佳威と番になるの?」 ケーイチが壁に背中を預けたまま俺を見る。返事に困って無意識に視線を逸らした。 いつものケーイチなら俺の気持ちを察してくれて、きっとこの話はここで終わっていただろう。睦人が話したくないなら無理に聞かないよ、なんて言って。 「佳威のアレ、本人無自覚だろうけど完全に口説いてたよ」 でも今日のケーイチは、ここで終わりにする気はないらしい。 「聞いてたのか…?」 「聞こえたんだよ。入るには入れなかったし」 「あぁ…ごめん……でも、佳威が俺のことを好きかどうかは…」 確かに佳威は俺のことを気にしてくれてる。友達としてだけじゃない。それは分かる。分からないほど幼くも、無知でもない。先程の表情を見れば尚更に。…だけど。 「佳威はさ…俺のフェロモンに惑わされてるだけなんじゃないかな。初めて嗅ぐ好きだと思う匂いに」 卑屈だと自分でも分かっている。だけどこんな時に限って渥の言葉が頭から離れないんだ。惑わされてるだけだ、と。何も言い返せなかった自分が重なる。 「…別に、好きじゃなくたっていいんじゃない?睦人はその為にこの学校に来たんでしょ?番になるαを探す為に。佳威は一般的に可愛いであろう女性Ωの誘いを断ったんだよ?あいつなんて今睦人が誘えばコロッと落ちると思うし、簡単だよ」 「や、そういう事じゃなくて…」 「だって好きだなんだ言ったところで、Ωのフェロモンにαは無条件に惹きつけられる。知ってる?佳威の恋愛対象Ωだけなんだよ?……羨ましいよね、Ωってだけで簡単に想いを伝えられて…そんなの、俺にどうしろって言うんだ。勝てないよ」 一瞬何を言っているのか分からなかった。 いつも優しいお兄ちゃん。そっと見守りいざという時には手を貸してくれる。 俺の知るケーイチとは違う表情に、つらつらと吐き出される言葉達。 というか、 勝てない――

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