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引っ掛かる台詞だった。 勝てない、だなんて。それではまるで。 「ケーイチ…もしかして」 「…もう戻ろっか」 言葉を遮ってケーイチが歩き出す。こちらを一度も振り向かない背中に、これ以上この話をするつもりはないのだと言われているようだった。 ーーー 「見たか?佳威!今のはハートだった。まるで僕の佳威への想いを形にしたみたいだ」 「ああそうだな。だいぶ(いびつ)だったけどな」 「見ろ、あれは星だ!僕の期待の星である佳威を表現しているんだね、きっと」 「…お前は一体俺の何に期待してるんだよ」 「全てにさ!!」 「……はあ…いつにも増してウザい」 「溜息をつく佳威も素敵だ」 「………」 縁側に座る瑠威さんの怒涛の好き好き攻撃に、その隣に居た佳威がとうとう返事をする事を放棄した。 俺はという、並ぶ縁側の一番端に腰を落とし、隣にはケーイチの姿。どうしてもケーイチの傍から離れられず、というか何だか離れたくなくて気付くと横に座っていた。 「睦人」 「ん!?」 「スイカ好きじゃないの?」 ケーイチが俺の手元に視線を向ける。三日月型に切られたスイカは殆ど減っていない。 「!…忘れてた」 「忘れるなんてことある?」 「花火に夢中で…つい」 本当はケーイチの事が気になってスイカどころじゃなかったとはとてもじゃないが言えない。でも俺の言葉にふふ、と笑ったケーイチにホッとした。笑ってくれた… 先程俺に向けていた視線はあまり心地良いものでは無かった。視線だけじゃない。感情も。俺の間違いで無ければ、ケーイチはきっと―― 「なに2人で楽しそうにしてんだよ。俺も混ぜろ」 「うわっ」 突然後ろからガバッと体重が掛かり前のめる。後ろを見ると佳威がケーイチと俺の肩に腕を回しながら倒れ込んで来ていた。 「ちょっと、佳威。重い」 「んなこと言うなって。兄貴の相手すんの疲れんだよ」 「ひどいな佳威!でも同級生と戯れる佳威もイイ…!」 文句を言うケーイチに佳威が耳打ちをするが、その小さな声さえも瑠威さんの耳には届いてしまったようだ。 弟愛が激し過ぎる実の兄の言葉に佳威は眉間に皺を寄せる。

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