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今迄ならケーイチの言葉に何も思わなかった。そうだったんだ、照れ臭いけど嬉しい。そんな風に思うだけ。
だけど今は違う。思い付いた仮定のせいで、不思議と体が重くなる。先程の台詞をどんな顔をしてケーイチが口にしたのかを考えてしまう。
瑠威さんは分かりやすく固まる俺とケーイチを交互に見て「君、アイス食べたくないか?」と最後に俺を見た。
「アイス、ですか?……もしや買って来いと…?」
「意外と君も頭の回転が早いじゃないか。いいことだ。今日、誰かさんのせいで食べ損ねたからな。今すぐ僕はアイスが食べたい」
急なアイス食べたい宣言に重くなりかけた空気が分散していく。俺は正直なところホッとして畳から腰を上げた。
「アイスだけでいいですか?」
「ああ、欲しいものがあれば買えばいい。全部使え。コンビニの場所は分かるか?」
瑠威さんはどこに入れていたのか長財布を取り出して――何のブランドかは分からなかったが高価そうな鰐革だ――五千円冊を渡してきた。
アイスを買うだけで五千円とは。コンビニで五千円全て使い切る自信はないし、なんともリッチなお兄様である。
「場所なら俺も一緒に行くんで大丈夫ですよ」
「ハジメも行くのか…」
「この時間まだ祭りでハイになってるのが多いですし、念の為」
ケーイチがついて来てくれると聞いて、少々気まずい気もするが、場所が分からないので素直にありがたいと思った。
ただそうすると残された瑠威さんが一人になってしまう。瑠威さんの声は、ケーイチが出て行ってしまう事が残念そうに聞こえた。
この人は俺の中で勝手に寂しがり屋の構ってちゃんなイメージが定着してしまったからな。本人に言ったら絶対怒られるやつだ。
「僕のことは気にしなくていい。適当に佳威の部屋を満喫しておくから」
俺の視線に気付いたのか、瑠威さんは俄然楽しみになってきている旨を伝えてくる。興奮が伝わってきてやっぱりこの人は佳威の言う通り変態だと思った。
「じゃあ…行ってきます」
「すぐ戻りますね」
瑠威さんは俺に続いて立ち上がったケーイチを目で追ったあと、片方の口角を上げる。そのままひらひらと俺たちに手を振った。
「ゆっくりでいいさ」
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