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「昔はあんなに人を寄せ付けない奴じゃなかったんだ。男子からも女子からも好かれててさ、転入して来た俺に話し掛けてくれたのも向こうからでさ。湿っぽいとこなんて全然なくて太陽みたいで…好感しか持たなかった」
「…口は悪いけど、陰湿な悪口とか一切言わないもんな。佳威」
「言わないね。文句は言うけど」
佳威の性格の良さをお互いに褒めているのに、二人して一言多い。一瞬だけ空気が和んだ。
「ただ…佳威の家はああだから。自分たちに害がないとは言っても子供達の親の中には良く思わない人達が居てね。子供は関係ないし、佳威は友達に暴力を振るう奴なんかじゃないのに…あの子と遊んだら駄目だ、とか、そういうの」
「…うん」
「やっぱり何人かは離れていった。あの頃の俺たちは親の意見が絶対だったからね。その度にあいつ笑うんだ。仕方ねーよって。ケーイチも無理すんなよって」
「………」
佳威の性格を考えれば、容易に想像ができた。思わず、ぐ、と唇を噛む。勝手に想像して俺の方が悔しくなってしまう。
そりゃあ確かに光田組に良いイメージだけがある訳じゃない。俺の母親だって最初は佳威のことを知らないから心配だと言った。
一度会えば佳威がどんなにいい奴か分かるのに、母親の中の情報は極道の組長の息子。それだけだから。
「何とも思ってない訳ないのに、そんな事言うから俺は意地でもこいつとずっと一緒に居てやるって思ったんだよね」
俺も周りと同じだって思われるのが悔しかったのかも、と昔を思い出したのかケーイチが控えめに笑った。
「ま。佳威はαだから当然桐根に行っちゃって、中学は別々になっちゃったんだけど」
「…そうなるよな。俺と渥も同じ感じだ」
「黒澤くんも苦労したんじゃないかな。佳威は元々αだってほぼ100%分かってたけど、αだと正式に分かった途端離れていった奴らが手の平を返したように近寄って来たって言ってたし…あそこらへんから佳威も硬い表情するようになったんだよね」
カサとケーイチの左手からビニール袋の乾いた音がした。こっそり見ると握り締める袋の持ち手にたくさんの皺が寄っている。
「高校でまた同じ学校になって、佳威は頭もいいし運動神経も抜群。身長もクラスの中で一番高くて格好いい。そして何より天下のαだ。…俺は、佳威の横に立っても恥ずかしくない男であろうと思ってめちゃくちゃ勉強した。前から嫌いじゃなかったけど、前にも増して猛勉強したよ」
『え!?ケーイチって学年一位なのか!?』
『そうそう、こいつ頭だけは良いんだよ』
『頭だけで悪かったね』
転入して初めて三人でお昼ご飯を共にした時を思い出した。
元から頭が良いんだと思っていたけど…もちろん俺とは頭の出来が違うとは思うが、学年一位の裏にはそんな理由が隠されていたなんて。
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