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第12話
部屋に付いているクーラーが稼働する音を聞きながら、俺はここ最近何度も繰り返し行なっている動作を今日も飽きずに行なっていた。
ベッドの上で胡座をかいて壁を背もたれにして座る。手の中には数字が羅列した携帯画面。
「…どうする……?」
それは、佳威達と夏祭りに行った日に掛かってきた渥からの電話番号だった。
『家に来たでしょ?…あれ、俺が教えたんだよ』
あの時、苦しそうなケーイチに俺は言葉を失ってしまった。視覚と聴覚の情報がアンバランスで、抱いた感情を上手く言葉に出来なかった。
そうして返す言葉を必死で考えている内に、曲がり角から佳威が現れたのだ。
お風呂上がりで前髪も下ろし、今すぐ眠れるようなラフな格好の佳威は俺たちを見つけて「まだこんなところに居たのかよ」と呆れた声を出した。
「アイス買うのに何分掛かってんだお前ら」
「…睦人が瑠衣さんのアイスを真剣に悩んだ結果だけど、なんか文句ある?」
「兄貴の?あいつもう家出たぞ」
「え!?」
「…あー…もう行っちゃったんだ。相変わらず忙しい人だね」
「…マジか」
俺の悩んだ時間とは…。
項垂れる俺の手に持つコンビニの袋を覗き込んで、佳威はふっと口角を上げた。
「それ正解。そういうの多分あいつ好きだわ。兄貴は俺と真逆でクソ甘いもんばっか食うんだよ」
「おお…」
俺のも入ってるけど、どっちにしても正解って事は佳威からしたらどっちもクソ甘いって事か。
「良かったね、睦人」
「あ…うん…良かった、のか…?」
「とにかく早く戻ろうぜ。暑過ぎ。ケーイチ俺のは?」
「あるよ。アイスコーヒー」
「いいねえ!さすがケーイチ!」
バシッと背中を叩いて褒め称える佳威に、痛かったのかジロリと睨むケーイチ。
そして、佳威の登場によってケーイチとの会話は自然と消滅してしまった。何せ佳威の前で話せる内容ではない。
それにあれ以上あの場で話す事なんてなかったかも知れない。すぐにすぐ解決できる問題じゃないし、そもそも解決方法がある問題かと問われれば首を捻る。
ただ二人と別れてから夏休みという事も重なり、佳威ともケーイチとも会わない日々が続いて湧き上がってきたのは一つの疑問。
それを確かめるにはこの握り締めた携帯番号の持ち主に会う必要がある。
「でもなあ…」
こんなにも電話をする事に勇気がいるなんて。電話番号を登録する事すら躊躇うのに、そんなスパッと切り替えて電話なんてできるわけない。
俺が居ない時にはよく家に来る癖に、家に居る時には全然来ないんだもんな、あいつ。監視カメラでも付いてんのか?
ボフッと携帯をベッドに放り投げて、俺自身もそのまま体をうつ伏せにして寝転んだ。
「……渥…何やってんだろ」
小さく呟いた声に反応したかのように、突然電子音が響く。
着信源は放り投げた携帯からだった。
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