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慌てて携帯を確認すると、表示されていたのは「父さん」の文字。 跳ね上がった心臓が急速に落ち着きを取り戻し、ホッとしたような残念なような気持ちのまま応答ボタンを押した。 「もしもし、父さん?」 『お、りっちゃん出るの早いな〜。何してたの?』 「えっ…えーと、夏休みの課題…?してた」 『へえ!偉いなあ。お前は大抵休みが終わるギリギリにやり始めるタイプだから、父さんいっつもそわそわして…』 「いやいや父さん…用事があって掛けてきたんじゃないのか?てか今仕事中だろ」 涼しい部屋でゴロゴロしてたなんて言えなくて、咄嗟に適当な嘘を付いてみたがもちろん課題なんてしていない。 父親の言う通り夏休みの課題はギリギリに始めてヒーヒー言うのがセオリーなので、早めに会話の軌道修正を図る。 余談だが、俺はどんなにギリギリに始めても必ず休みが明ける前までには何とか終わらせるので、生徒の中で悪目立ちする事はない。 『今は父さん珈琲タイムなんです〜。でな、りっちゃん。今日の夜、暇かい?暇なら父さん達とご飯でも行かないか?』 「ご飯?…いいけど、父さん達って他にも誰か居るの?母さん?」 母親からそんな話は一言も聞いていないけど。不思議に思って聞き返すと父親の口から出てきたのは意外な人物だった。 『実は恭介(きょうすけ)くんと飲みに行く事になってね。…あ、恭介くんって渥くん達のお父さんの事な。飲む前に折角だし子供達を交えてご飯でも食べようかって話で』 「え!…あ、あー、そういえば前に渥の親父さんが言ってっけ。社交辞令じゃなかったんだ」 『りっちゃんなかなか酷い事言うなあ。これでも向こうにいた頃は結構仲良かったんだぞ』 電話の向こうで父親が拗ねる声が聞こえて思わず笑ってしまう。緩い。我が親ながら果てしなく緩い。 でも、子供達を交えてって事は渥も来るって事だよな。とは言え有紀も来るだろうし、親父さん達も居るから俺のしたい話は出来ないかも知れない。 まあ電話を掛ける掛けないでウジウジしてるよりはマシか。 「暇だし、行く」 『よし。じゃあ19時頃に駅で落ち合って行こうか。お店は駅の近くだから』 「別に直接お店でいいよ。店の名前教えくれたら大丈夫」 『本当?じゃあ後でお店の場所送るから。気を付けてくるんだよ』 電話を切って数分するとお店の名前と住所が記載されたメッセージが送られてきた。念の為一度ナビで場所を確認した後、俺はベッドを降りてそそくさと机に向かう。 「数学からやっとくか…」 父親についた、課題をやっていたなんていうしょうもない嘘を真実にする為だった。

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