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昼間ほどの照り返しはないものの、アスファルトから立ち上る熱気が、じわじわと体力を奪っていく。例えるなら温めるだけの低音のホットプレートの上をスニーカーで歩いている気分。 夕方、家を出た俺は店までの道のりを携帯のナビで確認しながら歩いていた。 「あっつ…」 ちょうど帰宅ラッシュというやつで、駅前にはたくさんの人が行き交っている。スーツを着た人達は疲弊疲労が浮かぶ顔をして、きっとこれから各々の家に帰るのだ。 俺も何年後かにはあんな風に仕事と家の往復に追われるんだろうか。 そう考えて、でもきちんと仕事ができるだけマシか…とも思った。 Ωの俺はヒートと一生付き合って生きて行くしかない。 αとの子を作れば必ずαが産まれるなんていう研究結果のおかげで、社会におけるΩの位置は多少なりとも上昇したらしいが、それでも所詮は子供を産む為の個体という意識は強いと思う。 なんなら位置が上昇したのも結局はαの中だけな気がするし、番ができたとしても俺には発情期が必ず訪れるわけだ。 それが誰彼構わずではなく、番相手一人になるというだけの話。 最近、恋愛対象がΩだけという佳威の気持ちが少し分かる。 もし、例えば。 俺がβと結婚をしたとしても、きっと迷惑を掛け続ける。αとは番という精神的にも肉体的に強い繋がりが作れるが、βとは作れない。でも必ずヒートは訪れる。 そして、仮にβとαが結婚をしたとして。 αの前にフリーのΩが現れて、そのΩのヒートにαが出くわしてしまえば、築き上げた関係を酷い形で崩してしまう。その逆も然り。だから自然と恋愛対象から遠ざかる。 『…そんなの、俺にどうしろって言うんだ。勝てないよ』 脳内でケーイチが苦い表情を浮かべた。 「まただ…」 あの日のケーイチの表情が、言葉が、離れない。 わざわざ自分が傷付く道を選んでどうするんだと言われたが確かにその通りかも知れない。でも後悔はしてない。 聞かない道は俺には選べなかった。ただその苦い余韻を引きずっているだけ。 会えないって色々考えちゃうな。 ーーー 「………早過ぎた」 課題を早々に切り上げた所為か、歩きながら色々なことを考えていた所為か、約束の時間よりかなり早くに着いてしまった。 指示されたお店の前で立ち止まって建物を見上げる。昼間の灼熱を吸収していそうな黒と、落ち着いた赤のコントラストが雰囲気のある外装。漢字ばかりが並ぶ看板は、昼間に確認した通りの名前。中華だ。場所は間違っていない。 問題があるとすれば俺が一番乗りって事だろう。

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