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外で待ってるのも暑いし、先に中に入っててもいいのかな。予約とかしてるんだろうか。してたらどちらの父親の名前で? もう一度お店の入り口を見つめる。 どう考えても高校生一人で訪れるには敷居が高い。 …あー、やっぱり父さんと一緒に来た方が良かったか。とりあえずコンビニでもあれば涼みながら待ってるんだけど、と辺りをキョロキョロ見渡した。 「何やってんの」 店の前で挙動不審な動きを見せていた俺の背後から、多分こちらに話し掛けたであろう声。 驚いて振り返ると体に合わせて作られたようなシャツに、スキニータイプの黒のパンツを履いた――渥の姿があった。 「渥…!」 話がしたいと思ってはいたが、まさかこんなにも早い段階で会うとは!想定外な渥の登場に、意識せず肩に力がこもる。 久しぶりに会う渥はじわじわと蒸れそうな空気の中でもどこか涼しげで、細身のパンツから伸びる足は嫌味なくらい長い。 整えられた眉毛の下にある漆黒に近い瞳が俺の顔から足元へと降りて行き、最終的に再び俺の顔へと戻った。 「五体満足で帰ってきたんだな」 「……どういう意味」 意味不明過ぎる。俺が一体どんな目に合っていたと思ってるんだ。戦場にでも赴いていたのか、俺は。 「涼太さんは?」 「父さんはもう少ししたら来ると思う。俺一人で来たから」 「へえ。とりあえず中に入るぞ。暑い」 「…渥でも暑いとか感じるんだ」 「喧嘩売ってる?買わないけど」 渥は俺の横を通り過ぎて行く際に流し目で睨んで来たが、返答を待たずに店の中へ入って行ってしまう。 慌てて後を追って店の暖簾をくぐった瞬間、ひんやりとした冷気が体を包み込んだ。 店員は俺の事も待ってくれていたようで、目が合うとにこりと微笑む。中は完全個室の店舗らしく人の気配は感じるものの、既に殆どの扉は閉められ満席に近い。 人気店なんだな、ここ。呑気にそんな事を考えながら、渥と一緒に案内された角の個室へと入る。 「飲み物、どれがいい?」 席に着いた瞬間、渥がメニューを無造作にバサッと目の前に差し出してきて、俺は片手だけを左右に振った。 「俺は後でいいよ。まだ親父さん達来てないし」 「カルピス?」 「…聞いてるか?俺の返事」 「違うのが良かったら店員が来る前に決めとけよ」 「えっ!ちょっと待って…!」 俺のストップを無視して渥は店員を呼んだ。扉の外で待機してたんじゃないかぐらいのスピードで現れた店員に「烏龍茶と」とオーダーを途中で区切って渥は俺へと目配せをする。 誘われるように店員はにこやかに俺の方へと顔を向け、さすがに店員を前に「いらないです」とは言えず「…烏龍茶をもう一つ」と答えた。

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