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手元には氷が浮かんだ烏龍茶。水滴が張り付いたコップはキンキンに冷え、自覚する以上に乾いていた喉を潤した。 「生き返る…」 「そりゃ、あそこからここまで歩いてくればそうなるだろ」 「渥はなんでこんなに早いんだ?」 「涼太さんを待たせるわけには行かないと思って」 …やっぱり父さんか。 なんだよ。久しぶりに会ったって言うのに。そこまであからさまな対応しなくたっていいじゃんか。 先に居たのが父さんじゃ無くて、俺で悪かったな! コンッとコップをテーブルの上に音を立てて置いた。 「あのさ!皆が来る前にちょっと聞きたいことがあるんだけど」 「なに」 「この前!…の、事だけど…この前」 円卓の、俺から言えば丁度正面に位置する渥と二人きりでの対面に視線がうろつく。いざ話をしようとすると言葉が上手くまとまらない。 渥は片肘をテーブルに付き、その手で顎を支えて俺を見た。 あまり明るくない照明が首筋の線を照らして、唇がにやりと上がる。 「この前って…俺に甘えまくってきた夜のこと?」 全身の血液が顔に集まったみたいに熱くなった。 「ち、違う!夜とかは関係なくて、あれは、不可抗力というかっ…言いたいのはそっちじゃない!」 「あ、そ。残念。じゃあなに?」 残念ってどういう意味なんだ。…ああ!もう!渥の言うことはいちいち意味を探らないと分からない。探っても分からないことの方が多いけど、今はいい。 「…夜の、前の話だよ」 顔が熱い。火照りを冷ます為に烏龍茶を喉に流し込んだ。 「あの日…遊びに来たって言ってたけど、さ。ケーイチに言われたから俺のとこ来たのか?」 俺の視線を真正面から受け取った渥は僅かに目を細めた。 「お前はほんと期待を裏切らないね」 「……は?期待って、なんだそれ」 「忠告してやっただろ。そんな話してくるってことは意味なかったみたいだけど」 忠告?確かに佳威の実家に行ったあの日、電話越しに渥が口にしたのは「あまり深入りするな」という忠告だった。反感を買うぞ、と。 でもあれは、瑠威さんの事だったんじゃ… 「忠告って瑠威さん…佳威のお兄さんの事だったんだろ?」 「光田の兄貴の情報なんて俺が知るわけないだろ。俺と光田が家族の話をするほど仲良しに見えるか?」 はあ、と呆れたように溜息をつく。そう言われてしまえば確かにおかしいけど、じゃあ一体誰の―― 「もしかして…ケーイチのこと?」 「それ以外に誰がいるんだ」 「え、じゃあ渥は知ってたのか?」 思わずガタッと身を乗り出した。反動で揺れたコップを渥の手が引き寄せる。中身は溢れずに俺から距離を置いた。

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